さかづき)” の例文
すべて無邪気な遊戯のかぎりつくしてさかづきを挙げたが、二時間には大風おほかぜの過ぎた如く静まり返つて再び皆アトリエの中に絵筆を執つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
点頭うなづきながら叔母にかう答へて英也はさかづきを取つた。畑尾がまた来たのと入り違へに南は榮子を寝かし附けた夏子をれて帰つて行つた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
せりの香に、良雪はふと膳へ顔を向ける。さかづきを取って一こんという余裕を相手に見せたが、それを内蔵助の考えこんでいる顔の前へ出して
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とかういふ順にさかづき煽飲あふつたといふから、朝から晩まで酒にひたつてゐたものと見て差支さしつかへなからう。道理で自分の選んだ墓の銘には
稻束いなづかたてに、や、御寮ごれう、いづくへぞ、とそゞろにへば、莞爾につこりして、さみしいから、田圃たんぼ案山子かゝしに、さかづきをさしにくんですよ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よろしくまうされたりと、きみの前に出すを見給ひて、一三八片羽かたはにもあらぬはと興じ給ひて、又一三九さかづきげてめぐらし給ふ。
何しろ杉なりに積んだ千兩箱が頭の上から崩れて來て、屠蘇とそさかづきを持つた、大黒屋徳右衞門を下敷きにしたんだから怖いでせう
さも手がだるいと云ふ風に、持つてゐたくだものく小刀を、Wの上に冠のある印の附いたさかづきの縁まで上げて一度ちいんと叩いた。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
「おめえ、さういに自分じぶんとこれえばかしかねえでせな」とよわものところさかづきあつめてこまるのをようとさへするやうつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かれ微笑びせうもつくるしみむかはなかつた、輕蔑けいべつしませんでした、かへつて「さかづきわれよりらしめよ」とふて、ゲフシマニヤのその祈祷きたうしました。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ロチスター氏のひどい蒼白い色は消えてゐて、再びもとのやうにしつかりときびしく見えた。彼はさかづきを私の手から取つた。
「わが父よ、若し出来るものならば、このさかづきをわたしからお離し下さい。けれども仕かたはないと仰有るならば、どうか御心のままになすつて下さい。」
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
またこれらのはかからたくさん漆器しつきさかづきぼんはこなどがましたが、その漆器しつきには、これをつくつたとき年號ねんごうつくつた人達ひとたちこまかくりつけてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
卓には麺包パンあり、莱菔だいこんあり。一瓶の酒を置いて、丐兒かたゐあまたさかづきのとりやりす。一人として畸形かたはならぬはなし。いつもの顏色には似もやらねど、知らぬものにはあらず。
又、ただそんな理窟ばつた因縁いんねんばかりではなく、彼は心からこの花を愛するやうに思つた。その豊饒ほうぜうな、さかづきからあふれ出すほどの過剰くわじような美は、ことにその紅色の花にあつて彼の心をひきつけた。
ゑずまひに眼先まさきあてなるさかづきやとよりと屠蘇のがれたるかに
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
よしやまたさかづきうましとて、にがしとて
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
私はさかづきを重ねた。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さかづきふくくちびる
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
詩人に交際のすくない、いなむしろ交際を避けて居るヌエはたれとも握手をしなかつた。皆思ひ思ひに好む飲料のさかづきを前に据ゑて雑談にふけつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「酒かい。」徳蔵氏は寡婦ごけさんのやうな悲しさうな声をした。「酒もこの頃では余りやらん事に決めとるよ、まあさかづきに五六杯といふところかな。」
其處そこでお料理れうりが、もづくと、冷豆府ひややつこ、これはめる。さかづき次第しだいにめぐりつゝ、いや、これは淡白あつさりしてい。さけいよ/\たけなはに、いや、まことにてもすゞしい。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれ悉皆みんなさわいで自分じぶんはらりるだけのすし惚菜そうざいやらをはしはさんでさかづきへはれようとしなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
三々九度のさかづきさへ濟んでしまへば此方のものだ。人の女房になつてしまつたお福のために、人殺しの罪を
彼女は、まるで彼女の幸福のさかづきが今一杯になつたとでも云ふやうに、云ひ盡されぬ滿足の溜息をいた。思はずも浮かぶ微笑をかくさうとして、私は横を向いた。
たまたま衆客しゆうかくみなさかづきを挙げて主人の健康を祝するや、ユウゴオかたはらなるフランソア・コツペエを顧みて云ふやう、「今この席上なる二詩人たがひに健康を祝さんとす。また善からずや」
堂のうしろの方に、仏法ぶつぱん々々とこゑちかく聞ゆるに、貴人さかづきをあげ給ひて、れいの鳥絶えて鳴かざりしに、今夜こよひ酒宴しゆえん一一八はえあるぞ。紹巴ぜうは一一九いかにとおほせ給ふ。
「もう一つ」と女は低い声で云つて、ギヤルソンに卓上のさかづきを指して居た。この時刻に此処で逢ふ約束の人を待ちかねて居る様子が、顔を外へ見せぬやうにして俯向いた美くしい白い頸附きに見える。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
此処ここの定めは注文した酒のさかづきと引換に銭を払ふので、洋袴パンタロン衣嚢かくしから取出す銅銭の音が断えず狭い室の話声はなしごゑに混つて響くのもほかちがつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
千助せんすけじゆんさかづき𢌞まはつてとき自分じぶん國許くにもとことなぞらへて、仔細しさいあつて、しのわかものが庄屋しやうや屋敷やしき奉公ほうこうして、つま不義ふぎをするだんるやうに饒舌しやべつて
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と直ぐ何かの名義をこさへて宴会をする。この男の考へでは、日本人と支那人とは蠅のやうなもので、さかづきふちか肉皿のなかでなければ仲善くはならないものらしい。
ばあさまのだつておめえさけぢや酩酊よつぱらあからやつてさつせえよ」ばあさんそばから交互たがひさかづきすゝめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
娘が二人、姉のお君に若い番頭の彌八を娶合めあはせることになつて、今晩は祝言。三々九度のさかづきが濟んで、彌八とお君は型の通り、別間に引取ると、思ひも寄らぬ騷ぎだ。
「イングラム孃の御口づからの御命令ならば、水をつた乳のさかづきにも酒のスピリットが入りませう。」
はやく酒殽さかなをつらねてすすめまゐらすれば、八四万作しやくまゐれとぞおほせらる。かしこまりて、美相びさう若士わかさぶらひ膝行ゐざりよりて八五瓶子へいじささぐ。かなたこなたにさかづきをめぐらしていと興ありげなり。
声の主は、その頃同じ基経の恪勤かくごんになつてゐた、民部卿時長の子藤原利仁としひとである。肩幅の広い、身長みのたけの群を抜いたたくましい大男で、これは、煠栗ゆでぐりを噛みながら、黒酒くろきさかづきを重ねてゐた。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さいセエヴルのさかづき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
元二げんじじゆんさかづき𢌞まはつてとき自分じぶん國許くにもとことりて仔細しさいあつて、しのわかものが庄屋しやうや屋敷やしき奉公ほうこうして、つま不義ふぎをする、なかだちは、をんな寵愛ちようあいねこ
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さかづきのなかには、女の眼や立派な書物のなかに見られるやうな、色々の世界が沈んでゐる。だが過飲のみすぎ過読よみすぎと同じやうにどうかすると身体からだこはす事が多い。——モーランドは少し飲み過ぎたやうだ。
なみなみげるさかづき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
こゝに一夜いちやあけのはる女中頭ぢよちうがしらのおぬひ?さん(ねえさんのいまつまびらかならず、大方おほかたうだらうとおもふ。)朱塗しゆぬり金蒔繪きんまきゑ三組みつぐみさかづきかざりつきの銚子てうしへ、喰摘くひつみぜん八分はちぶさゝげてきたる。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしのさいさかづき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ひとり婚礼に至りては、儀式上、文字上もんじじやう、別に何等の愛ありて存するにあらず。たゞ男女相会して、粛然とさかづきめぐらすに過ぎず。人のいまだ結婚せざるや、愛は自由なり。ことわざに曰く「恋に上下のへだてなし」と。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)