つつ)” の例文
ある日などはチュンセがくるみの木にのぼって青いおとしていましたら、ポーセが小さな卵形たまごがたのあたまをぬれたハンケチでつつんで
手紙 四 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おとこは、いえかえり、今度こんどは、失敗しっぱいをしないつもりで、けた仏像ぶつぞうをふろしきにつつんで、むら金持かねもちのところへってかけました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そんな素直すなおかんがえもこころのどこかにささやかないでもなかったのですが、ぎの瞬間しゅんかんにはれいけぎらいがわたくし全身ぜんしんつつんでしまうのでした。
あたしゃ今こそおまえに、精根せいこんをつくしたお化粧けしょうを、してあげとうござんす。——紅白粉べにおしろいは、いえとき袱紗ふくさつつんでってました。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
驚きと恐れと一つにしたような異様の叫び声が、人々の口をいて出た。風呂敷につつまれた物というのは、白い新しい経帷子きょうかたびらであった。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
シューラはおいおいいた。あたりのものがばらいろもやつつまれて、ふわふわうごした。ものくるおしい屈辱感くつじょくかんに気がとおくなったのだ。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
とひょいと立つと、端折はしょった太脛ふくらはぎつつましい見得みえものう、ト身を返して、背後うしろを見せて、つかつかと摺足すりあしして、奥のかたへ駈込みながら
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丁坊の身体をつつんだゴム袋の中に、無線電話機が入っているというのだ。もちろん丁坊も知らなければ、隊長大月大佐もこれを知らない。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
テーブルクロスのつつみのほうは、とちゅうで透明人間とうめいにんげんの気がかわり、ブランブルハーストをでたところの松林まつばやしですててしまったのである。
母の後ろからすこしはなれて、フランスの百姓ひゃくしょう女のようなふうをした婦人ふじんが、白いむつき(おむつ)につつまれた赤子をだいてついて来た。
つきすると、木々きぎこずえ青葉あおばつつまれ、えだえだかさなりって、小鳥ことりもりこだまこして、うえはならすくらいに、うたしました。
ところが、下女は今までつつましくしていたのが、次第にお化粧をする、派手な着物を着る。なんとなく人の目に立つ。宮沢は気が気でない。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
平生つつかくしているお延の利かない気性きしょうが、しだいに鋒鋩ほうぼうあらわして来た。おとなしい継子はそのたびに少しずつあと退さがった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さすがにかくしきれもせずに、をつとがてれくさ顏附かほつきでその壁掛かべかけつつみをほどくと、あんでうつま非難ひなんけながらさうつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ズル/\ツと扱出こきだしたは御納戸おなんどだかむらさきだか色気いろけわからぬやうになつたふる胴巻どうまきやうなもの取出とりだしクツ/\とくとなかから反古紙ほごがみつつんだかたまりました。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
おとうさんはやっとすわって、おちゃを一ぱいのむひまもないうちに、つつみの中から細長ほそながはこして、にこにこしながら
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
やりたくても無い時があり、あってもやりたくない時があり、二拍子ふたひょうしそろって都合よくやる時もあり、ふかし甘藷いも二三本新聞紙につつんで御免を蒙る場合もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうして、さらにさらに大きなかげでつつんでしまうのは、いつのまにか軍用船となって、どこの海を走っているかさえ分からぬ大吉たちの父親のことである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
妾の容子ようすの常になくつつましげなるに、顔色さえしかりしを、したしめる女囚にあやしまれて、しばしば問われて、秘めおくによしなく、ついに事云々しかじかと告げけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
物に由りて或はくしされて燒かれしも有るべく或は草木くさきの葉につつまれて熱灰にうづめられしも有るべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
おふくろは色消いろけしにつつむで置くべきボロまで管はずぶちまけと、お房はさすがに顏をあからめて注意を加へた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
窓の外には、すがすがしい新緑につつまれた湘南しょうなんの山野が、麗かな五月の陽光を浴びながら、まるで蓄音機のレコードのように、グルグルと際限もなく展開されて行く。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
また武蔵野のあじを知るにはその野から富士山、秩父山脈国府台こうのだい等を眺めた考えのみでなく、またその中央につつまれている首府東京をふりかえった考えで眺めねばならぬ。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「あれッ、そのふところに見えます金入かねいれが、たしかに、わたしの持っていたつつみでございます」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この弱点に打ちたんか、あるいはこれをつつまんとするは、むしろむべき努力であって、その人が果たして包みきれるか制しきれるかは別問題とし、ともかくおのれの弱点を意識し
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
が、家宅捜索かたくそうさくをすると、時価じか概算がいさん億円おくえん相当そうとうする金塊きんかい白金はくきん、その地金ぢがね居室きょしつ床下ゆかしたから発見はっけんされたため、ついにつつみきれずして、刈谷音吉かりやおときち毒殺どくさつのてんまつを自供じきょうするにいたつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
その伺つていた賤の男がその玉を乞い取つて、常につつんで腰につけておりました。
しかもあかじみた萌黄色もえぎいろ毛絲けいと襟卷えりまきがだらりとさがつたひざうへには、おほきな風呂敷包ふろしきづつみがあつた。そのまたつつみをいた霜燒しもやけのなかには、三とう赤切符あかぎつぷ大事だいじさうにしつかりにぎられてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
少年は、朝からなんべんも、いたでできた寝床ねどこのほうへ行ってみた。そこには、まるでせんべいのようにうすい下じきをしいて、何かのつつみをまくらのかわりにあてて、病気びょうきのおかあさんが寝ている。
けふのお弁当は何んぢや これはノリでつつんだおにぎりぢやなあ
林をつつめり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おとなしい新らしい白、みどりの中だから、そして外光の中だから大へんいいんだ。天竺木綿てんじくもめん、その菓子かしつつみはいて行ってもいい。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あるのこと、彼女かのじょは、いつかあかかみいしつつんでげたいわうえにきて、うみのぞみながら、かみさまにわせて、しずかにいのりました。
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
坊主ぼうずは、たてつけのわる雨戸あまどけて、ぺこりと一つあたまをさげた。そこには頭巾ずきんかおつつんだおせんが、かさかたにしてっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かれは黒馬旅館くろうまりょかんでうばってきた衣類いるいと、研究けんきゅうノートのつつみをトーマスにもたせ、どこへゆこうとしているのか、しきりに先をいそいでいた。
一つの姿すがたから姿すがたうつかわることのはやさは、到底とうていつくけの肉体にくたいつつまれた、地上ちじょう人間にんげん想像そうぞうかぎりではございませぬ。
このときからわたしは我知われしらずかの女を、なにか後光につつまれた人間以上いじょうのものに思うようになり、それが白い大きなつばさをしょってはいないで
それからフランスの飛行機に乗って上海シャンハイへ飛んだ。そのとき親子は、小ざっぱりとした背広に身をつつんでいた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
余は鶏柵内けいさくないのミズクサの木の根を深く掘って、こもつつんだまゝ眠った様なデカの死骸をほうむった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かぜはなかつた。空氣くうきみづのやうにおもしづんでゐた。人家じんかも、燈灯ともしびも、はたけも、もりも、かはも、をかも、そしてあるいてゐる我我われわれからだも、はひとかしたやうな夜霧よぎりうみつつまれてゐるのであつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
やぶの上へまっさきについたのは、いうまでもなくコトエだった。コトエはそこで、草むらに学校のつつみをかくして、みんなをまった。吉次とソンキが先をあらそうように走ってきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そしてその中へ、川の石にしおをふりかけて、それをたけつつんだものをれて
春山秋山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一つは彼の安堵あんどであった。困ったという心持と、助かったという心持が、つつかくす余裕のないうちに、一度に彼の顔に出た。そうしてそれが突然入って来たお延の予期とぴたりと一致した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとマリちゃんは、自分じぶん箪笥たんすって、一ばんした抽斗ひきだしから、一ばん上等じょうとうきぬ手巾はんけちしてて、食卓テーブルしたほねを、一つのこらずひろげて、手巾はんけちつつみ、きながら、戸外おもてってきました。
すなわち武田伊那丸たけだいなまるは、眉目びもくをあさく藺笠いがさにかくし、浮織琥珀うきおりこはく膝行袴たっつけに、肩からななめへ武者結むしゃむすびのつつみをかけ、木隠龍太郎こがくれりゅうたろう白衣白鞘びゃくえしらさやのいつもの風姿なり、また加賀見忍剣かがみにんけんもありのままな雲水うんすいすがた
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お母さんは、ものの二つのひつと、達二たつじの小さな弁当べんとうとを紙にくるんで、それをみんな一緒いっしょに大きなぬの風呂敷ふろしきつつみました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あとから、かみなりおといかけるようにきこえたのです。ふりくと、もはや野原のはらのかなたは、うず黒雲くろくものうちにつつまれていました。
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
シルクハットをかぶり、大きなつつみをかかえたおかしな人かげは、風のように街路がいろをかけぬけ、まちかどをまがっておかへむかって走っていった。
そのうちそら真暗まっくらくなって、あたりの山々やまやま篠突しのつくような猛雨もううめにしろつつまれる……ただそれきりのことにぎませぬ。
欝金うこん風呂敷ふろしきつつんで、ひざうえしっかかかえたのは、亭主ていしゅ松江しょうこう今度こんど森田屋もりたやのおせんの狂言きょうげん上演じょうえんするについて、春信はるのぶいえ日参にっさんしてりて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)