香箱こうばこ)” の例文
紺と白茶と格子になった炬燵蒲団の上には、端唄はうた本が二三冊ひろげられて頸に鈴をさげた小さな白猫がその側に香箱こうばこをつくっている。
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
露「新三郎さま、是はわたくしかゝさまから譲られました大事な香箱こうばこでございます、どうか私の形見と思召おぼしめしお預り下さい」
別に買った雛も無いから、細君が鶴子を相手に紙雛を折ったり、色紙いろがみの鶴、香箱こうばこ三方さんぼう四方しほうを折ったり、あらん限りの可愛いものを集めて、雛壇ひなだんかざった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ちいさな蒔絵まきえのしてある香箱こうばこのふたをけて、なかから、三のボタンをして、正雄まさおわたしました。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
博多の鳩笛、柳河やながわの羽子板、熊本の独楽こまや金太郎、または葉猿はざる、肥前神埼かんざき郡尾崎の子供笛、同国北高来郡の古賀人形こがにんぎょう、鹿児島の香箱こうばこ糸雛いとびななど、挙げれば色々と想い出されます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
上からはあり合すもの、衣裳葛籠いしょうつづら煙草盆たばこぼん煙管きせる、茶碗、湯呑、香箱こうばこの類、太鼓、鼓、笛や三味線までも投げ尽したが、もう立臼のような投げて投げ甲斐のあるものがありませんでした。
眠るときは俗に香箱こうばこを作るというかたちで、横になることはめったにない。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
若い娘などの持ちたがる蒔絵まきえ香箱こうばこであります。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)