はなむけ)” の例文
時に依って万歳の叫喚で送られたり、手巾ハンカチで名残を惜まれたり、または嗚咽おえつでもって不吉なはなむけを受けるのである。列車番号は一〇三。
列車 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鹿島さんの再び西洋に遊ばんとするに当り、活字を以て一言いちげんはなむけす。あんまりランプ・シエエドなどに感心して来てはいけません。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「何の風情ふぜいもござらぬの。老人がおさかな申そうかの」三太夫はやさしく微笑して、「唐歌からうた一節ひとくさり吟ずるとしよう。そなたに対するはなむけじゃ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は読み書きの好きな和助のために座右の銘ともなるべき格言を選び、心をこめた数よう短冊たんざくを書き、それを紙に包んで初旅のはなむけともした。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
憶良の大伴旅人にはなむけした「書殿餞酒歌」の如きものは、よごとの変形「魂乞ひ」ののみゴトの流れである。
将軍がいわれたように、シンガポールの陥落をはなむけに旅立つことの出来る幸福を英夫は一生忘れられないだろう。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
お登和さん、大丈夫です。貴嬢あなたのお心はよく分りましたからいくら遅くなっても向うで御飯を食べずに帰って来ます。大原君よろこび給え、今夜はお登和さんが君にはなむけの御馳走を
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
大正昭和の年代に人知れずういう事に悩み、こういう事に生き、こういう事に倒れた女性のあった事を書き記して、それをあわれな彼女へのはなむけとする事を許させてもらおう。
智恵子の半生 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
その時、奥山ではなむけした時、時ならぬ深夜の人影をえる黒犬があった。滝さんちょいとつかまえて御覧とお兼がいうから、もとより俵町界隈かいわいの犬は、声を聞いて逃げた程の悪戯いたずら小憎。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蘭軒の姉、黒田家の奥女中幾勢きせは茶山にはなむけをした。所謂いはゆる餞は前に引いた短簡に見えてゐる茶碗かも知れない。わたくしは此餞を云々したくだりしもに、不明な七字があると云つた。此所には蠧蝕としよくは無い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
汝がその雄々しき門出のはなむけに送るであろう
波濤よ:――人情素描―― (新字新仮名) / 今野大力(著)
大正昭和の年代に人知れずういふ事に悩み、かういふ事に生き、かういふ事に倒れた女性のあつた事を書き記して、それをあはれな彼女へのはなむけとする事を許させてもらはう。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
それをはなむけの言葉にかへよう。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)