餅搗もちつき)” の例文
ちょうど女房と子供が、実家さと餅搗もちつきの加勢にとるけに、この店をば慾しがっとる奴の処へて委任状と引換えに五十両貰うて来た。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
電気休業で、朝から台所には餅臼もちうすが用意されて、順一や康子は餅搗もちつき支度したくをした。そのうちに隣組の女達がぞろぞろと台所にやって来た。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
かつて餅搗もちつきの場合に、戸板をはずしてその上に餅を並べた。その時の餅の粉が白く戸板に残っている、というのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
耐忍たへしのびて田原町に到りけるに見世には客有りて混雜こんざつの樣子なれば裏へ廻りて勝手口よりひそか差覗さしのぞくに今日は餅搗もちつきと見えてそなへを取もあれば熨斗のしを延もあり或はなます
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
毎年の浅草の年の市(暮の十七、八の両日)には暮の餅搗もちつきに使用する団扇うちわを軽焼の景物として出したが
隣家となりでは朝から餅搗もちつきを始めて、それが壁一重隔てて地響のように聞えて来る。三吉の家でも、春待宿はるまつやどのいとなみにせわしかった。門松は入口のところに飾り付けられた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
去年の暮餅搗もちつきが濟んだ後で、鳶頭に手傳つて貰つて、梯子はしごを滑らせながら、大骨折で押しあげましたが、その時は間違ひもなく、ほこりが入らないやうに、伏せて置いた筈ですよ。
土間は餅搗もちつきで大賑わいだった。彼は男たちや女たちの間をくぐりぬけて、やっと上りがまちまで行ったが、餅搗でみんな興奮していたせいか、誰も彼が来たことに気がつかなかった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
本郷の春木座に餅搗もちつき芝居の興行、これがそもそも鹿芝居の元祖、ところがこの座頭だいの駄じゃれ屋で、この時の狂言一番目の「夜討曾我狩場曙」をもじって大名題「陽曾我借座明物」。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
餅花もちはなよるねずみがよし野山(一にねずみが目にはとあり)とは其角がれいのはずみなり。江戸などの餅花は、十二月餅搗もちつきの時もちばなを作り歳徳の神棚へさゝぐるよし、俳諧はいかいには冬とす。
御霊の善哉屋ぜんざいや餅搗もちつきか何かして居る角力取すもうとりが仲裁に這入はいって来て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
餅搗もちつきが隣へ来たといふ子かな 一茶
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
こういう行事のあった時代は、それだけ正月のにぎやかさを添えたことと思うが、師走しわす餅搗もちつきの音でさえ、動力機械に圧倒された今日、そういうことを望む方が無理であろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
餅花もちはなよるねずみがよし野山(一にねずみが目にはとあり)とは其角がれいのはずみなり。江戸などの餅花は、十二月餅搗もちつきの時もちばなを作り歳徳の神棚へさゝぐるよし、俳諧はいかいには冬とす。
餅搗もちつきや捨湯流るゝ薄氷 晩柳
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)