飛脚ひきゃく)” の例文
茶の間では銅壺どうこが湯気を立てて鳴っていた。灸はまた縁側えんがわに立って暗い外を眺めていた。飛脚ひきゃく提灯ちょうちんの火が街の方から帰って来た。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「はははは、お前が松島に向かったと聞いてな、わしも急に思い立って出て来たのだ。足の早いのは貴様こそ、親は飛脚ひきゃくででもあったかな?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ああ、その事、その事。それはわたしの方からお前さんに尋ねたい。飛脚ひきゃくを立てようかと思っていたところですよ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昔の大名行列だいみょうぎょうれつ挾箱持はさみばこもちは、馬とおなじ速力でついて行かねばならず、飛脚ひきゃくという者などは、状箱じょうばこを肩にかけて、街道を走り通さねばならなかった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
『もしや貴方様は、山浦やまうら内蔵助さまと仰っしゃいませんでしょうか。てまえは、松代の飛脚ひきゃくでございますが』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人目には飛脚ひきゃくを斬り四人目には老婆を斬り五人目には武士を斬った。しかも家中の武士であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
冥途めいど飛脚ひきゃく」の中で、竹本の浄瑠璃じょうるりうたう、あの傾城けいせいに真実なしと世の人の申せどもそれは皆僻言ひがごと、わけ知らずの言葉ぞや、……とかく恋路にはいつわりもなし、誠もなし
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
おれ達をかまってくれるはずがねえ——前かた懇意こんいにしてくれた、江戸のごろつき仲間にも、飛脚ひきゃくを立てたり、手紙をやったりして見たのだが、ろくに返事も来なかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
一体御前方はただ歩行あるくばかりで飛脚ひきゃく同然だからいけない。——叡山には東塔とうとう西塔さいとう横川よかわとあって、その三ヵ所を毎日往来してそれを修業にしている人もあるくらい広い所だ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
江戸にいて奥州おうしゅうの物を用いんとするに、飛脚ひきゃくを立てて報知して、先方より船便ふなびんに運送すれば、到着は必ず数月の後なれども、ただその物をさえ得れば、もって便利なりとしてよろこびしことなれども
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
駕籠かごが電車や自動車になり、行燈あんどんがガス燈や電燈になり、飛脚ひきゃくが郵便となり、そのうえ電信や電話などの重宝なものができた。今では無線電信や無線電話もでき、写真を電信で伝えることさえできる。
民族の発展と理科 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
草枯れて狐の飛脚ひきゃく通りけり
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼の軍勢は、城下にとどめてある。意気揚々、秀吉は宿営に帰り、すぐ竹中半兵衛に、君命をつたえ、半兵衛は直ちに、長浜の留守へ向けて、飛脚ひきゃくをとばした。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中一日を旅で暮らし、その翌日諏訪へ着いたがすで飛脚ひきゃくはやってある。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もう、よくせき急ぎな早打ちの飛脚ひきゃくか、迷子のからすでもない限りには、この小仏を越えるものはなく、宇宙も大地もヒッソリとしたうちに静かな夜霧の幕が全山をつつんで来る。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「江戸からのお飛脚ひきゃくでございます」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「では、飛脚ひきゃく役か」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)