風采なり)” の例文
学生風でも、サラリーマン風でも、成るべくその家の人々が案内を知らぬ方面で、その令嬢が好きそうな風采なりをして接近する。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
小春の雲の、あの青鳶あおとびも、この人のために方角むきを替えよ。姿も風采なりも鶴に似て、清楚せいそと、端正を兼備えた。襟の浅葱あさぎと、薄紅梅。まぶたもほんのりと日南ひなたの面影。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、その女は三十五、六で、風采なりもいやらしく容貌も醜く、態度もすさんで淫蕩いんとうで、あなたとは似ても似つかないような、そういう女でありましたよ。たしか私娼じごくでありましたはずで
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伝説にもその神様がどんな風采なりをしていたと云うことがないから、それははっきり判らないが、ひどく酒が好きであったと云うところからおして、体が大きくてでっぷりと肥り、顔は顔であか
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「暗殺の酒場キヤバレエ」だのと云ふ不穏な酒場キヤバレエが多い中に「暗殺の酒場キヤバレエ」は最も平民的な文学者とこの界隈に沢山たくさん住んで居る漫画家連中れんちゆうとが風采なりも構はずに毎集つて無礼講で夜あかしをするところとして有名である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それも出世して立派になつてゐるのなら、さうも思はないけれど、つまらない風采なりをして、何だか大変やつれて、私もきまりが悪かつたから、能くは見なかつたけれど、気の毒のやうに身窄みすぼらしい様子だつたわ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こんな勝手な風采なりを致しまして、陸の大王様に御目見得に参りました失礼の程は、何卒どうぞ御許し下さいまし。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
前後あとさき七年ばかりの間、内端に打解けたような、そんな風采なりをしていたのは初めてかと思う。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庄三郎はじぶん風采なりを提燈ので見て
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
遣瀬やるせなげに、眉をせめて俯目ふしめになったと思うと、まだその上に——気障きざじゃありませんか、駈出かけだしの女形がハイカラ娘のるように——と洋傘かさを持った風采なりを自らあざわらった、その手巾ハンケチを顔に当てて
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)