顕著けんちょ)” の例文
これは、その作戦を否定したばかりでなく、すでに遠征を好まない空気が、ようやく、廟議の上にも顕著けんちょとなった一証だと見てよい。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その音盤をかけながら、音叉をぴーんと弾くと、音楽以外に顕著けんちょな信号音が、或る間隔かんかくをもって、かーんと飛び出してくるのであった。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
随って浩二の言行には逸話となって伝えられるものが多い。泥棒を獣と思い込んでいたのは敏子が今しがた引き合いに出したほど顕著けんちょな実例である。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
平生へいぜい築き上げたと自信している性格が、めちゃくちゃにくずれる場合のうちでもっとも顕著けんちょなる例である。——自分の無性格論はここからも出ている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは特に顕著けんちょではないが、いわゆる「あまのじゃく」性を相当もっている。例えば雑誌社などから、家族の集団写真しゅだんしゃしんりにくると、頑として仲間に入らない。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
むしろこういう顕著けんちょなる実例にもとづいて、改めてここから研究せられてよい問題である故に、ひろく児童文化の考察者のために、我々はこの記録を残して置きたいのである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わずかに暦学や漢方医学や本草ほんぞう学のごときがあるに過ぎないが、それらがまったく直観的経験の上にのみ形作られ、一歩も抽象的に進まなかったのは、むしろ顕著けんちょな観を呈している。
日本文化と科学的思想 (新字新仮名) / 石原純(著)
佐助の語るところは彼の主観の説明を出でずどこまで客観と一致するかは疑問だけれども余事はとにかく春琴の技芸は彼女の遭難そうなんを一転機として顕著けんちょな進境を示したのではあるまいか。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
誠に大東京の繁盛を最も顕著けんちょに物語っている場所となった。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
しばしば台湾たいわんを旅行するに、その進歩の顕著けんちょなるに驚く。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
顕著けんちょな足跡は発見されなかったことなどを報告した。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼の軍功は、顕著けんちょである。——おそらくは円心自身も、名和長年や千種忠顕ちぐさただあきには劣らぬものと自負していたにちがいない。
海水浴の功能はしかく魚に取って顕著けんちょである。魚に取って顕著である以上は人間に取っても顕著でなくてはならん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その上に、月世界が近くなって、その方の引力が、地球の重力とは反対に目に見えて顕著けんちょになり始めた。つまり一切の物体が非常に軽くなったような勘定かんじょう
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
前よりは一層顕著けんちょに———交るのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その多くは放火であり、なかでも顕著けんちょなのは、三月十四日の夜半、尊氏の御池殿の全館が、焼亡したことである。まったくのあやで、出火の原因も不明だった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙面にはあまり顕著けんちょではないが、なにか緑色の文字らしきものがポーッと浮かんで来たのだった。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
若狭わかさその他の地方にあって、糧米買止めの策と海上封鎖に活躍していた、秀吉麾下きかの黒田官兵衛が働きは、ようやく顕著けんちょになり、城兵の胃のへ、直接こたえて来たのであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)