額堂がくどう)” の例文
笠のあごを上の山へ向けて、「あの頂に見える、蝉丸神社の額堂がくどうを、今夜だけ、借りうけたいと思うが、別に差しつかえはあるまいな」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊藤喜兵衛いとうきへえは孫娘のおうめれて、浅草あさくさ観音の額堂がくどうそばを歩いていた。其の一行にはお梅の乳母のおまき医師坊主いしゃぼうず尾扇びせんが加わっていた。喜兵衛はお梅を見た。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鳩の飛ぶのを眺めたり額堂がくどう絵馬えまを見たりしたならば、何思うともなく唯茫然として、容易たやすくこの堪えがたき時間を消費する事が出来はせまいかと考えるからである。
二人はふもとから坂を一ツ、曲ってもう一ツ、それからここの天神の宮を、こずえあおぐ、石段を三段、次第に上って来て、これから隧道トンネルのように薄暗い、山の狭間はざまの森の中なる、額堂がくどうを抜けて
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいか、日は土用の初めのたつの日、時刻はよいの六ツ半から七刻ななつの間、鹿野山の額堂がくどうに集まることだぜ。忘れねえようによく耳へとめておけ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、北関きたせきの崖の方から、またここへじ登ってきた七、八人の覆面がある。中に先立った一人の武士、額堂がくどうの下から
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女が、寒々と額堂がくどうの隅にうずくまっていると、最前から、蛇の目のからかさを手にさげて、雪に見とれていた一人の女が、側へ寄って来てこう声をかけました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
額堂がくどうは吹きさらしだし、拝殿はいでん廊下ろうかへねては神主かんぬしおこるだろうし、と、しきりに寝床ねどこ物色ぶっしょくしてきた蛾次郎がじろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『いずれ又会おう。急用のできた場合は、毘沙門堂びしゃもんどうの例の額堂がくどう、あそこの北の柱へ、釘で目印をつけておく。書物かきものは、その額堂の絵馬えまのどれかの裏へ隠しておくから、時々、柱の目印を見に来てくれ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お蝶は湯島の額堂がくどうでふるえていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)