頬摺ほおず)” の例文
憎むが如く、笑うが如く、また泣くが如く——そこに屈んでいた人間は、女の生首くびを、手から、転がして、また頬摺ほおずりをした。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自然と稽古にも興が乗って、千代子は抱かれて頬摺ほおずりなどする仕草しぐさにも、我知らず狂言ならぬ真剣味を見せはじめた。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
此奴こいつら、大地震の時は弱ったぞ——ついばんで、はしで、仔の口へ、押込おしこ揉込もみこむようにするのが、およたまらないと言った形で、頬摺ほおずりをするように見える。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
残った二人は白旗直八と幇間の左孝、二人とも、鬼になりたくてなりたくて仕様のないという人間——雛妓を追い廻して頬摺ほおずりするのを鬼の役得と心得ている人間でした。
中には子供たちの頭を撫でて抱き上げて、頬摺ほおずりしている者もあり、言葉は通ぜぬながらも、兵員たちと群集との間には、早くも和気の靄々あいあいたるものを生じて女たちの二
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
といって茂太郎は、頬摺ほおずりをするほどさしつけたお銀様のかおを見つめると
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
静枝は恵子の肩を軽くつかんで頬摺ほおずりをするようにしながら言った。
接吻を盗む女の話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「清葉が、頬摺ほおずりしたり、額を吸ったり、……抱いて寝るそうだ。お前、女房は美しかったか、綺麗な児だって。ああ、幸福しあわせな児だ。可羨うらやましいほど幸福こうふくだ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二重廻にじゅうまわしの間から毛むくじゃらの太い腕を出してお千代を引寄せて頬摺ほおずりをした。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
世にも美しく不幸なる二基の亡骸なきがらだけは、何とかして男爵夫人を探し出して一日も早く、その涙と頬摺ほおずりの手に掻き抱かせてやりたいとこいねがうもの、あながち私一人とは限らなかったであろう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「大真面目だよ、抱きついても構わねえ、首の後ろに真っ赤なあざは無いか、それを見極めるんだ。頬摺ほおずり位はしたっていいとも、万々一だよ、髯を剃った跡があったら、其処でしばって構わねえ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
頬へ押当てて頬摺ほおずりをしながら、逃げるように出て行ってしまいました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
百合 (じっとしばし)まさかと思うけれど、ねえ、坊や、大丈夫お帰んなさるわねえ。おおおお目ン目をねむって、うなずいて、まあ、可愛い。(と頬摺ほおずりし)坊やは、おつぱをおあがりよ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と乙女椿に頬摺ほおずりして、鼻紙に据えて立つ……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)