鞠躬如きっきゅうじょ)” の例文
名の無い画描きの人の、その面倒を見てやったらしく、出入りするのがいた。その人の鞠躬如きっきゅうじょとした姿が私の記憶にも残っている。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
直接の目標とされた会津さえも鞠躬如きっきゅうじょとして降伏を願っていたではないか。それを阻んだ征討軍参謀の世良せら修蔵は遊興のちまたで殺された。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
甲が乙に掛けろと言えば乙は辞退して丙に掛けろと言う。丙は固辞して丁にすすめる。丁はさらに鞠躬如きっきゅうじょとして甲にお掛けなさいと言う。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
紋三はまるで夫人の家来ででもある様に、鞠躬如きっきゅうじょとして答えた。彼は日頃から山野夫人の美貌に対して、ある恐怖に似たものを感じていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
嘗て有楽座の廊下で先生を追ひ廻し、鞠躬如きっきゅうじょとして先生の前に雑誌を捧げたあの晩のことが、再び新たに思ひ出された。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
或る日、徳川家康が、信長に用談があって、その室にゆくと、座に一老将があって、いかにも鞠躬如きっきゅうじょとしつつ、しきりに信長の機嫌をとっている。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中老人の羽織袴のお取持、これは多分、先方からこの客を迎えのための案内役と覚しいのが、鞠躬如きっきゅうじょとして、まかり出てくると、新元服が物々しく
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高慢な妹カーチャを真から崇め、鞠躬如きっきゅうじょとして小間使いのように仕えてたんだ……。それでもアガーフィヤはこの一件を、つまりおれとの話をそのおり当人に話したのだ。
それとも、原始人の恭敬篤実なこころにかえり、天をおそれ頭を垂れ、鞠躬如きっきゅうじょ、かたつむりのごとく遅々として地を往くほうが、すくなくともこのさい「穏当」ではなかろうか。
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「満船の時はどうも仕方がありません」と、ボースンは鞠躬如きっきゅうじょとして答えた。まるで、まるで、寒くて、暗くて、きたなくて、狭いのは、ボースン自身の罪ででもあるように。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ところが、この他ならぬ鷲が一歩その部屋を出て、自分の上役の部屋へ近づくと、たちまち鷓鴣しゃこのようになってしまい、書類を小脇にかかえたまま、鞠躬如きっきゅうじょとして伺候しこうするのだ。
そこには不謹慎とか、傍若無人とかに類する種のものは毫末も姿を現わしていないことが認め得られるからでもある。すなわち、鞠躬如きっきゅうじょたる誠意の姿が吾人の眼を奪うのみである。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
私はどのボートがない方がいいかを洞察し得るものは、私をその上に泛べている広い、たっぷりして活々した愛情なのであるから、その意味でも私は何だか鞠躬如きっきゅうじょとした気持になる。
鞠躬如きっきゅうじょとして勤勉に立働く魚芳は、もしかすると、そこの家の養子にされるのではあるまいか、と私の妻は臆測もした。ある時も魚芳は私の妻に、——あなたとそっくりの写真がありますよ。
(新字新仮名) / 原民喜(著)
私を案内してくれる役所の人がヘルメットをかぶって道を行くと、島民どもは鞠躬如きっきゅうじょとして道を譲り、うやうやしく頭を下げる。夏島でも秋島でも水曜島でもポナペでも、何処ででもみんなそうであった。
俺も相当鞠躬如きっきゅうじょたらざるを得なかった。知合いの信者の家に空間があるかもしれないからいっしょに出かけてみようといって、学校から七八町くらいだ、表書きの家は、そこに連れていってくれた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大隈首相を相手どって談じこんだ慷堂は、今こうして俺みたいな青二才を気楽に招じ入れて、気楽に話しこんでいるけれど、なるほど北槻中尉が鞠躬如きっきゅうじょとしているのも無理はない慷堂だと思ったのだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ここで、不破の関守氏はまたも頓首膝行の形で、三傑の御前を辞して、次の間にすべり出て、三太夫にまで鞠躬如きっきゅうじょとしてまかりさがってしまいました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鞠躬如きっきゅうじょとして審査の諸先生に松蕈まつたけなどを贈るとかのうわさも有之、その甲斐かいもなく三十年連続の落選という何の取りどころも無き奇態の人物に御座候えども
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
間もなく、読者にはすでに顔なじみの写真師が鞠躬如きっきゅうじょとして大銀行家の応接間に現われた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「何事のお使いにや?」と、鞠躬如きっきゅうじょとして出迎えた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鞠躬如きっきゅうじょとして、もっぱらお追従ついしょうこれ努めなければなりませぬ。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
明智が鞠躬如きっきゅうじょとして云った。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)