面桶めんつう)” の例文
と正直に答えますと、暫く私どもの顔を見上げておりました非人は、先刻さいぜん、呉れてやった味噌チリの面桶めんつうむしろの蔭から取出しました。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたしの顔を見ますると「勢州せいしゅうが見えたから何かやりな」と、面桶めんつうの中へ、きたてのご飯などを、お入れ下さるのでございます。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
面桶めんつうは字の宋音だといいますが、多くは楕円形をした弁当箱で、地方によって呼び方の変化が多く「めんば」「わっぱ」などともいいます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
門番呆れて、「汝等きさまら何が買えるもんか。干葉ひばや豆府のからを売りやしまいし、面桶めんつう提げて残飯屋へくがい、馬鹿め。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その弁当というのが、一かたけに約五合炊ぐらいははいる古風な面桶めんつうで、その中には梅干が二つと、沢庵が五切ればかり入れてあるだけのものでした。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこの敷石にはさいぜんのいざり乞食が、まだ慾張よくばって店を出していた。明智はふと心づいて、ポケットの小銭を探り、彼の前の面桶めんつうに投げ入れて通りすぎた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
土伝に昔ノーヅツ(上述野槌のづちか)ここに棲みたけ五、六尺太さ面桶めんつうほどで、頭と体と直角を成して槌のごとく、急に落ち下りて人々をんだといい今も恐れて入らず
ようよう樏子かれいけのほかに、面桶めんつうに入れたかたかゆと、木のまりに入れた湯との二人前をも受け取った。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
弁当べんたう面桶めんつうに入れて持かへりしを人ありてかはを金一両きもを九両にかひけり。
この界隈では市人いちんどと呼んでゐる、山奧から牛の背や荷車に薪や炭を積んで、町へ賣りに出る山男のやうな人々が、太政官の隱居に近い松林の小蔭に荷を卸して、肥料こえ柄杓の頭ほどある橢圓形の面桶めんつう
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
仰向けに面桶めんつうつかみ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
でも見廻した西条様の眼には、こもをまとい竹の杖をつき、面桶めんつうを抱いた乞食のほかには、人っ子一人見えなかったはずで。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とまくし立てて、ひるむところへ単刀直入、「しばらく足を洗ったために、乞食夥間なかまはぶかれた。面桶めんつう持って稼がれねえ。今この家を出るが最後、人間の干物になります。 ...
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六尺で面桶めんつうほど太く、頭が体に直角をなして附した状、槌の頭が柄に著いたごとしといい、あるいは長二尺ほどの短大な蛇で、孑孑ぼうふりまた十手を振り廻すごとく転がり落つとも
と云うて蒲鉾小舎の入口にいて在る面桶めんつうに半分ばかり入れてやりましたので、非人はシキリに押頂いておりましたが、暫くしてから行ってみますと、喰うたと見えて面桶が無い。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
弁当べんたう面桶めんつうに入れて持かへりしを人ありてかはを金一両きもを九両にかひけり。
相変らず菰をかむり、竹の杖をつき、面桶めんつうかかえた、乞食のわたしが、庄内川の方へ辿って行きましたのは、それから五日後の夜のことでした。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)