雇婆やといばあ)” の例文
この小犬に悩まされたものは、雇婆やといばあさん一人ではなかった。牧野まきのも犬が畳の上に、寝そべっているのを見た時には、不快そうに太いまゆをひそめた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下宿屋生活ぐらしより一躍して仮にも一家のあるじとなればおのずから心くつろぎて何事も愉快ならざるはなし、勝手を働くは小山が世話せし雇婆やといばあさん、これとて当座の間に合せ
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
といううち雇婆やといばあさんが火をとぼして来ましたから、見ると大の男が乗掛のッかゝってとこが血みどりになって居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
で、布団を胸へかけ、静かにねむりへ入ろうとした。すると襖がひっそりとあいて、雇婆やといばあさんが顔を出した。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お勝手の方でゴトゴトやっている六十がらみの雇婆やといばあさんに訊いても、その言葉に嘘はありません。
小鍋立こなべだてというと洒落に見えるが、何、無精たらしい雇婆やといばあさんの突掛つッかけの膳で、安ものの中皿に、ねぎ菎蒻こんにゃくばかりが、うずたかく、狩野派末法の山水を見せると、かたわらに竹の皮の突張つッぱった
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうおれんが書き続けていると、台所にいた雇婆やといばあさんが、突然かすかな叫び声を洩らした。このうちでは台所と云っても、障子一重ひとえ開けさえすれば、すぐにそこが板のだった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
留守番のお種は雇婆やといばあさんを誤魔化ごまかしてお勝手から抜け出し、そっと茶の木稲荷へ行ったのだよ、兵二郎は笛を吹いていた、笛は二本の手で吹くものだ、手は二本共ふさがっている
長二は其の頃両親ともなくなりましたので、煮焚にたきをさせる雇婆やといばあさんを置いて、独身で本所〆切しめきり世帯しょたいを持って居りましたが、何ういうものですか弟子を置きませんから、下働きをする者に困り
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それにしても君一人では当分の内不便だろうから雇婆やといばあさんでも置かねばなるまい。僕の知った桂庵けいあんがあるからその方へ頼んでおこうと僕が今寄って来た。君の方は別にむずかしい支度はあるまい。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
牧野まきのの妻が訪れたのは、生憎あいにく例の雇婆やといばあさんが、使いに行っている留守るすだった。案内を請う声に驚かされたおれんは、やむを得ず気のない体を起して、薄暗い玄関へ出かけて行った。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
行灯あんどんの下には手負のお嘉代が、雇婆やといばあさんに看護みとられて、ウトウトしている様子です。