雁行がんこう)” の例文
それで扇の動き方でその日の暑さを知ったというのは、雁行がんこうの乱るるを見て伏兵を知った名将と同等以上であるのかもしれない。
或る程度の期待がつなげられるようになったが、是と雁行がんこうしまた互いに利用し得べき文化史の方面では、まだ疑問の形すらもそなわっていない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二羽の白鳥に雁行がんこうするかと見れば、抜手を切って泳ぎ越し、遙か彼方に浮上って、手まねきをして見せたり、闇色の絶壁と、漆の様な水を背景とし
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
きつい坂をおりかけてから二人の話はんだ。主翁は書生の右側を雁行がんこうして歩いていた。寺の門口かどぐちにある赤松の幹に電燈のが依然としてかかっていた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その亡者のような与の公と、お閻魔えんまさまの蒲生泰軒とが、ぶらりぶらりと野中の一本道を雁行がんこうしていくのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、一団が雁行がんこうをなした。馬の首が前方を走っているところの、他の馬の尻に触れそうなほどにも、接近をして走っておりながらも、前の馬の走る邪魔をしない。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その自然と雁行がんこうして、この芸妓が、この暗いなかで気がついたのは、現に介抱してくれているこの人が、どうも以前に、面馴染かおなじみのあった人、と思い出してきた瞬間
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さッと、民部みんぶの手から二ぎょうにきれた采配さいはいの鳴りとともに、陣は五段にわかれ、雁行がんこうの形となって、やみ裾野すそのから、人穴城ひとあなじょうのまんまえへ、わき目もふらず攻めかけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしその修煉の功を積まば、あるいは雁行がんこうし、あるいは連鑣れんひょう先を争うもいまだ知るべからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いつも三機雁行がんこうの、その先登に立っていた司令機内のこの儂は、反射凸面鏡はんしゃとつめんきょうの中に写る僚機の、殺気だった戦闘ぶりを、ちょいちょい眺めては、すくなからず心配になってきたものだ。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのルージェール伯と、西洋悪魔メフィストフェレスと、接待係の変装をした波越警部とが、奥の黒天鵞絨の部屋へと、雁行がんこうして走った。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
両機は一千メートルの高度を保ちながら雁行がんこうしていたが、箱根の上空にさしかかったところで、密雲のために視界をさえぎられたうえに、エアーポケットに入って機体がはげしい勢いで落下した。
空中に消えた兵曹 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのとき、空の一角から、立川飛行聯隊の重爆撃隊じゅうばくげきたいが、三機雁行がんこうの隊形をとって、しずしずと、アクロン号の真上に、あらわれた。そこには、既に、アクロン号を守る敵機の姿も、見えなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こうして二梃の駕籠と魚心堂が雁行がんこうの形に急いでいるその源助町……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二人は、ついに雁行がんこうして歩き出してしまいました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
の如き深夜の大道を、二筋ふたすじの白い光が雁行がんこうして飛んだ。追駈おっかけである。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三つの尾行の雁行がんこうがはじまった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)