際涯はてし)” の例文
日本にほん化物ばけもの貧弱ひんじやくなのにたいして、支那しなるとまつたことなる、支那しなはあのとほ尨大ぼうだいくにであつて、西にしには崑崙雪山こんろんせつざん諸峰しよぼう際涯はてしなくつらな
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
際涯はてしのない暗闇の中に、私達の細長い車室けが、たった一つの世界の様に、いつまでもいつまでも、ガタンガタンと動いて行った。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
際涯はてし無く寂寞せきばくの続く人生の砂漠さばくの中に自然に逆ってまでも自分勝手の道を行こうとしたような、そうした以前の岸本では無かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうしてその奥に更に大きな、殆んど際涯はてしもないと思われる巨大な、素晴らしい黒幕が現出したのだ。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
感じと感じとの間には、星のない夜のような、波のない海のような、暗い深い際涯はてしのない悲哀が、愛憎のすべてをただ一色に染めなして、どんよりと広がっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
難儀をなさるだろうといっていちいち挨拶をしていたら際涯はてしがないだろう、それよりか、俺は俺の田地の減らぬようせっかく倹約をする方が、相方そうほう厄介なしで心安いというものだ。
厄払い (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それにしても、あの老人は何者であろうか。父の行方不明との惨殺事件との間に、何等かの関聯かんれんがあるのではあるまいか。こんな事を際涯はてしもなく思い続けているうちに、夜は白んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
途中の焦燥もどかしさは、まるで際涯はてしもない旅をしている気持であった。畑や村が車窓まどをかすめて後へ後へと消え、沿道の電線は、鞦韆ぶらんこからでも眺めるように、目まぐるしく高まったりちこんだりした。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
新しい板壁の反射や生々しいペンキの色は、そうした感じを象徴して際涯はてしもなく波打ち続いている。
二人で雪の中に凍えたかも知れない……左様さうでなくてすら、あの際涯はてしの無い白い海のやうなところで、もうすこしで私は死ぬかと思つた……私は身体からだが寒いばかりだとは思はなかつた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
時々眠くなるような眩暈めまい、何処かそこへ倒れかかりそうな息苦しさ、未だ曾て経験したことのない戦慄、もうすこしで私は死ぬかと思ったあの際涯はてしの無い白い海を思出すことも出来る。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの「生の氷」にたとえて見た際涯はてしの無い寂寞せきばくの世界の方へ。あの極度の疲労の方へ。あの眼のくらむような生きながらの地獄の方へ。あの不幸な姪と一緒にちて行った畜生の道の方へ——
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
茶屋の樓上からは近くにうしろが島、かなたに鏡が崎も望まれて、際涯はてしもなく續いてゐるやうな大海と、青く光る潮の筋とを遠く見渡すことも出來た。そこまでたどり着くと、海風が吹き入つてすゞしい。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)