陣幕とばり)” の例文
夜の戦野せんやから拾ッて来たと称して、物見組の一将校が、二人のかよわい者を連れ、おそるおそる尊氏の陣幕とばりへそれを告げに来ていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣幕とばりの外の士卒に、駒をあずけて、相木熊楠はずかずかと入って来た。鎧の鍛具うちものや太刀の柄に、雨のしずくが燦々きらきらと溜っている。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ひとり大呼して陣幕とばりのうちに入り、それからは、刻々の戦況よりは、べつな方面に向って、大きく頭脳をはたらかせていたものである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺とは名のみな、念仏道場の破れ門前に、陣幕とばりが見える。彼は物の具も解かず、今夜はそこで床几しょうぎのまま居眠りでもして過ごすつもりだった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腰を放されて、泳ぐように陣幕とばりのうちへよろけ込んだ丑蔵は、相木熊楠の厳しい眉を仰ぐと、あわてて逃げかけた。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風にさらわれた黄旗が地に捨てられてゆく。——まもなくまた、阿蘇惟直これなおと一族の惟澄これずみが伝令と共に陣幕とばりへかくれた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……直義、ちょっと、こなたへ」と眼でさしまねいて陣幕とばりの内へ入って行く。ついて行くと、二つの床几を分けあって、兄はさとすが如く弟へ言った。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、その日、ひとりの旗本は、二重三重に陣幕とばりを張りめぐらしてある本営の枢要部すうようぶに、一通の書面を取次いで来た。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
短い刃をうしろにかくして、陣幕とばりのすきから寝息をのぞく——。黒髪をうしろへ長く垂れた田舎娘の刺客しかくだった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美しい垂衣たれぎぬの女性が、一少年をつれて、柳堂の陣門をみちびかれ、直義の陣幕とばりのうちへ入って行った、と——。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「行くと、約して、ここまで同道して来たこと——。おぬしは、郎党をまとめて、浜奉行の引揚ゲ貝と共に、ここの陣幕とばりを払い、先へ府内へ帰ってくれい」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入れ代りに、陣幕とばりを揚げて、直義が顔を見せた。明け方のつかのだったろうが、よく眠った朝の顔だった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時、陣幕とばりの外で人声がした。聞き馴れている将士の声のほかに、どうも女らしい声もふと聞えた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お櫓下の広庭に、お床几をすえ、陣幕とばりも張りめぐらしておきました。お旗本の、万端の固めもできています。はやそこなるご床几場へ御座をお移りあそばすように」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐ、陣幕とばりを巡って大股に外へ出て行く。そして、さっきから馬上のままで待っていた佐々木道誉へ
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたりは夜営せきとして、陣幕とばりとおす外のかがが、かすかな明りを二人の間に見せているだけだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時雨しぐれもよいな雨気を帯びた風に、四囲の陣幕とばりがしきりにはたはたと鳴る中からの命であった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたりの陣幕とばりを吹き捲くり、その一端のすそが、武敏の半身へも、うるさくからみついてくる。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣幕とばりのうちははや黄昏たそがれめいた。寒々と落日のこぼれてくる時雨雲の下に、諸将はみなれない眉をして立ち上がった。謙信のことばは遂に、その日もわれに策なしに尽きていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するといま柳の間を縫って、直義ただよしの姿が池むこうの陣幕とばりのほうへ歩いて行くのがみえた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、同じ組の士、芋川平太夫と永井源四郎のふたりが何処から来たか、天颷てんぴょうに吹き落された小雀のように、彼方の陣幕とばりの蔭へ向って、まっしぐらに飛びこんで行くのが見えた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣幕とばりの外に平伏して訴えるのであった。——が、玄蕃允の胸にはべつにこういう判断があった。いかに大垣の秀吉が変を知って駈けつけたところで、大垣からここまでは約十三里。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、左右の部将とともに笑い、この頃はまずいという物は知らなくなったなどと語りながら出て行ったが、ふと、右側の陣幕とばりのすそにかがまっているいとも小さい幼な武者を見かけて
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やあ、毛受めんじゅか。——叔父御に会いに参る。叔父御はお小屋か、お陣幕とばりの裡か」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その夜、宋江は、陣幕とばりに灯をかかげて、独り例の天授の「天書三巻」をひらいてみた。内に“破邪ハジャノ兵法”一巻がある。それには“破術破陣ハジュツハジンノ法”があり、また“回風返火カゼヲメグラシヒヲカエス法”も見えた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
副将の阿曾弾正あそだんじょう大仏貞直おさらぎさだなお淡河右京亮おごううきょうのすけ二階堂道蘊にかいどうどううん、ほか十二大将が、一つ陣幕とばりのうちに首をあつめたのは、鎌倉の大令がここへとどいた直後であり、同日の午後にはまた、六波羅から
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとまた誰か、陣幕とばりの外へ来てたたずんだ気配である。五、六名の武者らしかった。しかし内へ入って来たのは、ただ一人の小冠者こかんじゃの影であった。遠くにかしこまって、手をつかえている。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かねて注目していた蔡和と蔡仲は、陣幕とばりの外に耳を寄せて、じっと、聞きすましていたが、さっと、夕風に陣幕の一端が払われたので、蔡和の半身がちらと、中の二人に見つけられたようだった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「登れば登るほど、夜中はわけて、寒さもきつうなりますが、北をよけているよい平地が少しありまする。少々陽は高うても、夜霧に巻かれぬうちに、陣幕とばりをお張りになるのが、良策かと思われます」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを最後に、秀吉は陣幕とばりを出て行った。と、すぐ大声で
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、陣幕とばりの西側に坐していた大炊介は、すこし進んで
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、陣幕とばりの外で
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)