閲歴えつれき)” の例文
身をせめて深く懺悔ざんげするといふにもあらず、唯臆面おくめんもなく身の耻とすべきことどもみだりに書きしるして、或時は閲歴えつれきを語ると号し
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼が魏でも屈指の良将軍たることは誰も認めていたし、実戦の閲歴えつれきも豊かで、曹操に仕えて以来の武勲もまた数えきれない程である。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その苦労はほとんど天下に大名たいめいをなしたものの、堅忍苦耐したくらいなもんだよ、その閲歴えつれきに対する報酬として、ただ、ひたすら
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
課長の言う通り、皆一癖も二癖もある。人数は五人だが、粒が揃っている。早分りのするようにこゝで閲歴えつれきを紹介して置こう。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
若い女の身で、鉄火の世界を渡り歩いていることだけは明瞭だが、どんな閲歴えつれきを持ち、どんな親分の後楯があるか、さっぱり、わからない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その夜、かれはおそろしい夢をみた——もしも次のような肉体的でかつ精神的な閲歴えつれきを夢と呼ぶことができるとすれば。
四十年来の閲歴えつれき聞人達もんじんたち気風きふう呑込のみこみたれば、たゞ諸名家しよめいか御休息所ごきうそくじよを作り、御褒美ごほうびにはうめぽんづゝうゑくだされと、かね卑劣ひれついでざる名案めいあんうめぽん寄附主きふぬし
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
私は自分の閲歴えつれきの上から、どうしても詩の将来を有望なものとは考えたくなかった。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
姉の不二子ふじこさんは今年二十二歳、仲々の才媛で、内地ないちの女学校を卒業した上、外交官の伯父さんの監督で、二年程欧洲へ勉強に行っていたこともある位、類なき美貌の上にこの閲歴えつれきだから
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
われ等は、地上生活中の自己の姓名を名告り、そして自己と同時代の性行せいこう閲歴えつれきにつきて、事こまやかに物語るであろう。さすれば、われ等が決してニセ物でないことは幾分明白になると思う。
過去は夢の閲歴えつれき
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
閲歴えつれきなども承って、愈〻思慕のおもいに駆られ、どうかして一度、会いたいものと念じていた願いかなって——今度の下向げこうに、計らずも尊公が
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしが過去半生の閲歴えつれきが、何だのだのと、そんな事から自然に生ずる信用が、どうだの、こうだのと、そんな気障きざな文句は言いたくもなければ、書きたくもない。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は自分の閲歴えつれきの上から、どうしても詩の将来を有望なものとは考へたくなかつた。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
勝家は亡び、滝川一益も零落れいらくしてしまった今では、その閲歴えつれきから、もののいえる人間は、かれ一人となっている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きな時代の変革へんかくは、いまや西に秀吉、東に家康と、この両巨人をもって、時の氏神うじがみとあがめ、信長以前の老練家は、いくら、家格、閲歴えつれき赫々かっかくたる実績があっても
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加うるに門地閲歴えつれき、並びにその麾下きかに持つところの実力といい、頑健な体格といい、この者こそは、時雲に選ばれた随一の男だとるに誰も不審とはいうまい。彼自身ももとより深くそう任じている。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)