錠口じょうぐち)” の例文
それにも返辞へんじはなく、殿中でんちゅう、ただなんとなくものさわがしいので、いまはジッとしていることもできないで、錠口じょうぐちまで足を早めながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お庭をわたる松風のと、江戸の町々のどよめきとが、潮騒しおさいのように遠くかすかに聞こえてくる、ここは、お城の表と大奥との境目——お錠口じょうぐち
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それとも殿御の御器量がお錠口じょうぐち金壺かねつぼさんのようなら、わたくしのような者でも御即答は出来ませんが、その長二郎さんという方は役者のような男だと御前様が仰しゃったではござりませぬか
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二百何十年来この木曾地方を支配するようにそびえ立っていたあの三むねの高い鱗茸こけらぶきの代官屋敷から、広間、書院、錠口じょうぐちより奥向き、三階の楼、同心園という表居間おもていま、その他、木曾川に臨む大小三
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「なにも驚くことはねえ、ただ少し頼みたいことがあって、さっきからここにかがんでいたのだ。——奥廊下へ渡る錠口じょうぐちのカギを貸してくれ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の病気と邪推のさせるすすり泣きの声が、ようやく外にまで洩れて来た頃、彼方の錠口じょうぐちの端に、榊原平七さかきばらへいしちの姿が見えて、そこから告げた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ行くには、錠口じょうぐちがあって、父の留守中は、用人でも入れないのに、誰か、微かな物音と、人の気配が中でする。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方の佐々介三郎は、勝手を知っている老公の居間なので、いつもの通り錠口じょうぐちまでかかると、杉戸の陰から、ふいに
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折ふし、北ノ庁では、常盤範貞を中心に、府臣数名が、錠口じょうぐちを閉じて、何か密議をこらしていたのだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平常へいじょう錠口じょうぐちよりおく平家来禁入ひらげらいきんにゅう場所ばしょであるが、いま老臣十兵衛がさきにまわってふれてあったので、一同表方おもてがた血戦けっせんしてきたままの土足どそく抜刀ぬきみ狼藉ろうぜきすがたで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家臣たちはがんとして老人の意思を拒んだ。そして無理にひと間へつれ込んで錠口じょうぐちを隔ててしまうと、そこへ竹屋三位卿が、おそろしく青ざめた顔色をして通った。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、いいつけ、また、べつの家臣には、女部屋の錠口じょうぐちを開けて、お蕗をつれて来るようにと命じた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
具足部屋ぐそくべや評定ひょうじょう寝所しんじょ、みな広い床張ゆかばりで、そこには毒死どくしさむらいもなくしんとしている。伊那丸いなまる留守るす錠口じょうぐちのさきからだれも人を入れなかったところなので——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙なうめきを聞いたのは、有村ばかりでなかったとみえて、小姓部屋からひとりの近習きんじゅうが走りだし、やはり錠口じょうぐちに立って、耳を澄ましているふうだったが、うす暗い所から
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右門は、約束すると、一刻もそこにいては悪いように、あわてて錠口じょうぐちの外へ出て行った。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廊、また廊を曲がって“平沙へいさノ庭”とよぶつぼの中橋を渡ると、執権御所の錠口じょうぐちだった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すウと、錠口じょうぐちをあけて、忍びやかな夜風と共に、中へ足を入れて来た関久米之丞。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とも聞えたので、側近たちが、大廻廊おおかいろう殿橋とのばしをこえて、西の丸との境——お錠口じょうぐちまで行ってみると、一群の小姓たちが、錠口部屋にかたまって、奥へ入った主君のもどりを待っていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊織は絶叫しながら錠口じょうぐちまで転げてきたが、すぐにバッタリと仆れてしまった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう何処からか屋外へ逃げ出していたのかと錯覚さっかくを起して、錠口じょうぐちの方へ、引ッさげ刀で馳け出しましたが、馬春堂の方は、実はその間に初めてホッと虎口をのがれ、小屋組みのはりを力に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾曲りもある中廊下や橋廊下を越えて、ようやく奥の錠口じょうぐちへはいるのだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
錠口じょうぐちにひかえて、元康の立坐を待っている榊原平七は、家来の身でも、余りなと、焦々じりじり思っていたが、元康は根気よく、彼女の不審の解けるまで、なだめたり説いたりして、やがてようやく
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたりはまだ後にのこって、錠口じょうぐちの出入りを、厳然と見はっていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)