這般しやはん)” の例文
つまり全く彼の文学上の観念の曖昧さを彼自身それに就いて疑はしいものがないといふことで支へてきた這般しやはんの奥義を物語つてゐる。
苟も這般しやはんの陋劣なる、無気力なる、非愛国的なる主義を全国に唱導伝播するに至つては、断じて黙視すべきにあらず。
警戒すべき日本 (新字旧仮名) / 押川春浪(著)
若し這般しやはんの和訳艶情小説を一読過せんと欲するものは、ふ、当代の照魔鏡せうまきやうたる検閲官諸氏の門を叩いてうやうやしくその蔵する所の発売禁止本を借用せよ。(二月十二日)
しかし書を著すものはことさらに審美学者の所謂無秩序中の秩序を求め、参差さんし錯落の趣を成して置きながら、這般しやはんの語を以て人を欺くのである。たゞ清川の此八字は実録である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あゝ大人物と丸木小屋! 偉人と貧困の親善なる何ぞそれくの如きや。這般しやはんの実例をつまびらかに叙せんとせば、我は実にこの『閑天地』を百千回するも猶且なほかつ足らざる者あらむ。(未完)
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
暗示はすなはちこれ幻想にらずや。這般しやはん幽玄の運用を象徴と名づく。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
私は然し這般しやはんのうちに、速力を主とした文字改革といふことの文化問題としての重大さを痛感させられた気もした。
文字と速力と文学 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
崑崙外史こんろんぐわいしの題詞に、「董狐豈独人倫鑒とうこあにひとりじんりんのかんならんや」と云へる、また這般しやはんの消息を洩らせるものに非ずして何ぞや。西班牙スペインにゴヤの Los Caprichos あり。支那に留仙りうせん聊斎志異れうさいしいあり。
一度其赫灼かくしやくたる霊光の人の胸中に宿るや嬋妍せんけんたる柳眉玉頬りうびぎよくけふの佳人をして、猶這般しやはん天馬空を行くの壮事あらしむる也。れ信念は霊界の巨樹也。地上の風に其一葉をだもふるひ落さるゝ事なし。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
庄吉は近代作家の鬼の目、即物性、現実的な眼識があるから、もとより這般しやはんの真相は感じもし、知つてもゐた。
オモチャ箱 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ユウゴオ咈吁ふつくとして答ふらく「天才なり」と。バロツシユその答にやいきどほりけん傍人ばうじんささやいて云ひけるは、「このユウゴオ氏も聞きしにまさる狂人なり」と。仏蘭西フランス台閣だいかくまた這般しやはんの俗漢なきにあらず。
信助夫人が摺子木棒アタリボーをふりかぶつて、どこだか分らず振り下したのが、どこだか分らず命中したのである。這般しやはんの立廻りの実況に就ては、他に目撃者がゐなかつたから、これ以上のことは分らない。
朴水の婚礼 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)