辻車つじぐるま)” の例文
葉子はなんという事なくその辻車つじぐるまのいた所まで行って見た。一台よりいなかったので飛び乗ってあとを追うべき車もなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
生きたる心地もせずして宮のをののけるかたはらに、車夫は見苦みぐるしからぬ一台の辻車つじぐるまを伴ひきたれり。やうやおもてあぐれば、いつ又寄りしとも知らぬ人立ひとたちを、可忌いまはしくも巡査の怪みてちかづくなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
十四五年前じふしごねんぜん、いまの下六番町しもろくばんちやうしたころも、すぐ有島家ありしまけ黒塀外くろべいそとに、辻車つじぐるま、いまの文藝春秋社ぶんげいしゆんじうしやまへ石垣いしがきと、とほりへだつた上六かみろくかどとにむかひ、番町學校ばんちやうがくかうかどにも、づらりと
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二階のテスリから繻子しゅすの帯をおろし、それをつたって表の広小路に出ると、辻車つじぐるまにのって一晩じゅう当てもなく向島むこうじま辺をき歩かせた揚句あげく本所ほんじょの知合いの家へころがり込んで、二日二晩
お袋がいずれ挨拶に来るというので、僕はそのまま辻車つじぐるまを呼んでもらい、革鞄を乗せて、そこを出る時、「少しお小遣いを置いてッて頂戴な」と言うので、僕は一円札があったのを渡した。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)