辛労しんろう)” の例文
旧字:辛勞
それを良人の肌着に見出すときは、却って、良人が妻に告げないでいる辛労しんろうをひそかに察して涙ぐましくなるようになっていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八幡はちまん、これにきまった、と鬼神がおしえたもうた存念。且つはまた、老人が、工夫、辛労しんろう、日頃のおもいが、影となってあらわれた、これでこそと、なあ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田園生活などいうても、百姓の辛労しんろうを見物ものにして、百姓の作ったものをぶらぶら遊んで見ていたって、そりゃ本当の田園趣味でない。なるほどおれも百姓になろう。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
前日来の艱酸かんさん辛労しんろうとは茫乎としてうたゆめの如し、一行皆沼岸にしておもむろに風光を賞嘆しやうたんしてまず、とほく対岸を見渡みわたせば無人の一小板屋たちまち双眼鏡裡にえいじ来る、其距離きより凡そ二里
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
夫の出世大事と身をに砕きて辛労しんろうの甲斐もなく、又我が夫とても数多あまたの人を助けた事こそあれ、ちりほども我が心にずるような行いをした事はない、それに如何いかなる因果のめぐり合せか
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
奇妙ないくとき! 奇妙に精根しょうこんを疲らせる辛労しんろう! 精神と肉体のふしぎに生産的なまじわり! 原稿をきちんとしまって、なぎさから立ちかけたとき、アッシェンバッハは疲れきったような、いや
五年に渡る辛労しんろうが山吹の体をむしばんだと見えとうとう山吹は病気になった。五歳になった猪太郎が必死となって看病はしたが、定命じょうみょうと見えて日一日と彼女の体は衰えて行き死が目前に迫るように見えた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ありのままを、秀吉へ語るにも、秀吉の辛労しんろうにたいして、気のどくな気がしたが、つつみも出来ぬことなので、平井山の陣所へ着くとすぐ
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)