軽口かるくち)” の例文
旧字:輕口
やがて、おかみさんに励まされたり、軽口かるくちを交わしたりして出て行ったうしろ姿を、清吉は、つばをのんでいるように、黙って見ていた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ましてそういう、世の耳目に触れた記事を、取り入れないではおかない種類では、雑俳ざっぱいに、川柳せんりゅうに、軽口かるくちに、一口噺ひとくちばなしのがしはしなかった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
機嫌きげんのいい時に、彼を向うへ廻して軽口かるくちくらをやるくらいは、今の彼女にとって何の努力もらない第二の天性のようなものであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
精いっぱい軽口かるくちのつもりで彼は自分から笑ってかかると、玉藻も堪えられないように、扇で顔をかくしながら言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はこんな場所ででもいつもの手応てごたえを得るには得たが、場所柄を思ってそのうえの軽口かるくちをさしひかえようとすると、何だかこの口が承知してくれないようにも思えた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
そんな軽口かるくちをきかれて、御自身ごじしんはいつもとどう一の白衣びゃくいしろ頭巾ずきんをかぶり、そしてながながい一ぽんつえち、素足すあし白鼻緒しろはなお藁草履わらぞうり穿いてわたくしきにたれたのでした。
手遊びをしに来るのではない。中間とか馬丁陸尺とかいう連中にまじって軽口かるくちを叩いたり、したみ酒を飲みあったりするのがこの世の愉快だとある。あまり上等な趣味ではない。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
気作きさくな心から軽口かるくちなどを云つてまぎらして居る内に、三人目の男の児を生んだ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ヘドッコになってしまった江戸児の末裔まつえいは、誰もがそうであるように、辛辣しんらつ軽口かるくちで自家ざんぶをやる。
彼はなかなか旅馴れているとみえて、峠へのぼる間もいろいろの道中の話などを軽口かるくちにしゃべって、主従の疲れを忘れさせた。市之助も彼を面白い奴だと云った。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)