車輪くるま)” の例文
それは旅行馬車タランタスでもなければ軽馬車カリャースカでもなく、そうかといって半蓋馬車ブリーチカにも似ていないで、寧ろ上出来の西瓜に車輪くるまを取りつけたような恰好をしていた。
と、突如、車輪くるまが砂利を噛むように、お廊下に沿った一部屋に、わらわらわらと人声が湧いて
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宮は唯胸のうち車輪くるまなどのめぐるやうに覚ゆるのみにて、誠にもいつはりにもことばいだすべきすべを知らざりき。彼は犯せる罪のつひつつあたはざるを悟れる如き恐怖おそれの為に心慄こころをののけるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
堅牢けんらうなるてつおりをもつて圍繞かこまれ、下床ゆか彈力性だんりよくせいいうするクロー鋼板かうばんで、上部じやうぶ半面はんめん鐵板てつぱんおほはれ、半面はんめん鐵檻てつおりをもつてつくられ、鐵車てつしや都合つごう十二の車輪くるまそなへ、其内そのうち齒輪車しりんしや
いつたいこの定期市ヤールマルカに何ひとつ無いといふ品があるだらうか! 車輪くるまに硝子に樹脂タールに煙草、帯革、玉葱、そのほか百姓道具が一式……これでは財布に三十両あつても
ごろごろと引き出されて、すぐどの方角へ向いたかはもとよりわからなかったが、それでも、しばらく行って橋を渡ったことは、箱へ伝わる車輪くるまのひびきででもはっきりと知れた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だ宵ながら松立てる門は一様に鎖籠さしこめて、真直ますぐに長く東より西によこたはれる大道だいどうは掃きたるやうに物の影をとどめず、いとさびしくも往来ゆききの絶えたるに、例ならずしげ車輪くるまきしりは、あるひせはしかりし
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
やがてこの家の玄関へ乗りつけるらしい馬車の車輪くるまの音がはっきり聞こえて、それから、ついに停ったらしい三頭立トロイカの癇の立った馬の荒い鼻嵐と重苦しい息切れが部屋の中まで響いて来たのである。