車力しゃりき)” の例文
車力しゃりきは「残念ですなア。かたきをにがしてしまって……常陸丸ひたちまるではこの近辺きんぺんで死んだ人がいくらもあるですぜ。佐間さまでは三人まであるですぜ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かねて顔をっている車力しゃりきの百助というのが来合わせたので、二人はすぐに相談して、その熊の死骸を引っかついで逃げた。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
車力しゃりきのおろした書物がいっぱい積んである。三四郎がその中へ、向こうむきにしゃがんで、しきりに何か読み始めている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
左官の小助、魚屋の長次、車力しゃりきの正吉。小助は与平と同じ年ごろであり、長次と正吉は三十歳前後にみえた。
名に負う大家たいけの事でございますから、お大名様方にもお出入でいりが沢山ございまして、それが為めに奉公人も多人数たにんず召使い、又出方でかた車力しゃりきなども多分に河岸へ参りますゆえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
荷車の後押しをする車力しゃりきの女房は男と同じような身仕度をして立ち働き、その赤児あかごをば捨児すてごのように砂の上に投出していると、そのへんにはせた鶏が落ちこぼれた餌をも𩛰あさりつくして
も一人の平三は、車力しゃりきの親方の子で『菅原伝授手習鑑すがわらでんじゅてならいかがみ』の寺子屋、武部源造たけべげんぞうの弟子ならば、こいつうろんと引っとらえと、玄蕃げんばんが眼をきそうな、ひよわげで、泥亀すっぽんに似た顔をしている。
土工になるか人夫になるか車力しゃりきになるか、それとも心の眼をつぶって豚を屠るか、すべては内心の争闘の結果にまかせようと心の中に呟きながら、彼は首の無い蜻蛉を持ったまままた静かに歩き出した。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
と、鍛冶屋のお爺さんは車力しゃりきを引いて町へ出かけました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
だれつらまえても片仮名の唐人とうじんの名を並べたがる。人にはそれぞれ専門があったものだ。おれのような数学の教師にゴルキだか車力しゃりきだか見当がつくものか、少しは遠慮えんりょするがいい。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
車力しゃりき馬方うまかたが多い時には五人も六人も休んで飯をくっている事もあった。
車力しゃりき鳶のもの出方中でかたじゅう残らずで五両、其の外荷主様に戴いた御祝儀、煤掃すゝはき歳暮お年玉何やや残らず帳面に付けてある処を番頭に寄せてもらったら、丁度三百両になるが、微塵も積れば山だのう
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お婆さんの息子は車力しゃりきだった。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)