越後屋えちごや)” の例文
「その浪人者が、チョイチョイお小夜のところへ来たんだそうで、——米屋の越後屋えちごや兼松が、お小夜の家で三度も逢っていますよ」
外へ出る時は黄八丈きはちじょう羽織はおりを着せたり、縮緬ちりめんの着物を買うために、わざわざ越後屋えちごやまで引っ張って行ったりした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
有り合わせのものの中からできるだけ地味じみな一そろいを選んでそれを着ると葉子はすぐ越後屋えちごやに車を走らせた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私のうちは向うに見えるこん暖簾のれん越後屋えちごやと書き、山形に五の字をしるしたのが私の家だよ、あの先に板塀があり、付いて曲ると細い新道のような横町よこちょうがあるから
着物も越後屋えちごやのぞみ次第云付いいつけさするから遠慮なくおしも使つかえ、あれはそなたの腰元だから先刻さっきよう丁寧ていねいに辞義なんぞせずとよい、芝屋や名所も追々に見せましょ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さる贔屓ひいきよりという名義で、彼自身へは、越後屋えちごや見立ての、名にちなんだ雪に南天の——その南天には、正真の珊瑚さんごを用いたかと思うばかり、染いろも美しい衣裳一かさね。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こんなつまらない事を考えたりする。「駿河町するがちょう」の絵を見ると、正面に大きな富士がそびえて、前景の両側には丸に井桁いげたに三の字を染め出した越後屋えちごやののれんが紫色に刷られてある。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
殿様は能登のと様の御勘定役ごかんじょうやく。また、奥様のお実家は江戸一のお札差ふださし越後屋えちごや
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
越後屋えちごやというのが一軒、丸屋というのが一軒。
昔なら越後屋えちごや丁稚でっちよしどんというところです
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
中にも駿河町するがちょうという所にいてある越後屋えちごや暖簾のれんと富士山とが、彼の記憶を今代表する焼点しょうてんとなった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日本橋通り四丁目に八間間口まぐちの呉服屋を開いて、一時越後屋えちごやの向うを張った「福屋善兵衛ふくやぜんべえ」、丁稚でっち小僧八十人余りも使おうという何不足ない大世帯の主人ですが、先月の末から
上野町うえのまち越後屋えちごやさんの久七きゅうしちどんに流れの相談を致しまして、帰りにお薬を取って参りましたが、山田さんがそう仰しゃるには、お園さんは大分い塩梅だが、まだ中々大事にしなければならん
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お角の阿魔あまですよ。昨日きのう越後屋えちごやへ行って単衣ひとえと帯を買って小判を出しましたよ」
越後屋えちごやと対抗した江戸一流の呉服屋で、呉服の外に、大伝馬町おおでんまちょう金吹町かなぶきちょうなどに唐物屋とうぶつや、米屋、金物屋などの店を持ち、今の百貨店デパートを幾つにも割ったような豪勢な商売をしている店でした。