そら)” の例文
そういう時には、曾ての日と同じく、人語もあやつれれば、複雑な思考にも堪え得るし、経書けいしょの章句をそらんずることも出来る。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この調子で行くと御経おきょうの文句は、ぼん音とか漢音とか、なるべく解らぬようにそらんじた方がもっともらしく聞えていい。
隴西ろうせい李白りはく襄陽じょうよう杜甫とほが出て、天下の能事を尽した後に太原たいげん白居易はくきょいいで起って、古今の人情を曲尽きょくじんし、長恨歌ちょうこんか琵琶行びわこうは戸ごとにそらんぜられた。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あこには何がはいっていて、此処ここには何がしまわれているかということまで、筒井はそらんじていた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼女は弱々しく立ちあがり、年とった体をこごめて祈りをささげ、絶えず祈祷書きとうしょを読んでいたが、その手はしびれ、眼はおとろえて、読むことはできず、あきらかにそらんじているのだった。
「じゃあもう一つだけ——」杉本は何度も使った質問をそらんじながら今度は子供の顔を注視するのであった。「モシオ前ノ友ダチガウッカリシテイテオ前ノ足ヲ踏ンダラオ前ハドウスルカ?」
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
コルソオの大道にて戲謔能く人のおとがひを解きしは誰ぞ。アヌンチヤタが家にて即興の詩をそらんじ座客をおどろかしゝは誰ぞ。今は目に懺悔の色を帶び頬に死灰の痕を印して、殊勝なる行者と伍をなせり。
冥府の構造から、オシリス神の審判の順序から、神々の性行から、オシリス宮の七つの広間、二十一の塔の間やその守衛者の名前迄ことごとそらんじている。だから彼の疑は、そんな事に就いてではない。
セトナ皇子(仮題) (新字新仮名) / 中島敦(著)