いつは)” の例文
身をも心をも打委うちまかせていつはることを知らざりし恋人の、忽ち敵の如くおのれそむきて、むなしく他人に嫁するを見たる貫一が心は更に如何いかなりけん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そを母上に語れば、母上は又友なる女どもに傳へ給ひき。そが中には、われまことにさる夢を見しにはあらねど、見きといつはりて語りしもありき。
や云ひ出たるものならんかと一時は思はれけれども又とく容子ようすを見らるゝに全くいつはりにもあらぬことをさとられこと慈善じぜんを第一に天下の爲下民の安全を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれここに相武さがむの國に到ります時に、その國の造、いつはりて白さく、「この野の中に大きなる沼あり。この沼の中に住める神、いとちはやぶる神なり」
(四)真面目 彼はいつはらんには余り聡明なり、胡麻化ごまかさんには余り多感なり。自ら見る明故に詐る能はざる也。良心の刺撃太だ切、故に胡麻化す能はざるなり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
平三はさすがに妹が悪かつたため予定を変更して帰つたのだといつはりを言ふ事は出来なかつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
曾て或る愚なる新聞記者はわが作品の二三をつなぎ合せて我が半生のいつはりなき告白なりと思ひ、それによりて出たらめなる一文を草し麗々しくも三日に亙りて之を紙上に連載したり。
それで我々は決して利の高い金を安いといつはつて貸しはせんぞ。無抵当で貸すぢやから利が高い、それを承知で皆借るんじや。それが何で不正か、何でけがらはしいか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
白睨にらみ付おぼえ無しとは白々しら/″\しきいつはりなり去月廿七日小篠堤權現堂の藪蔭やぶかげに於て穀屋平兵衞を切殺きりころし金百兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我身は舊に依りて衣食を要するに、平生のたくはへをば病の爲めに用ゐ盡しぬれば、彼死を祕して、いつはりて猶ほ生きたるものゝ如くし、又脂粉を塗りて場に上ることゝなりぬ。
ここに天皇、答へ白したまはく、「高きところに登りて西の方を見れば、國は見えず、ただ大海のみあり」と白して、いつはりせす神と思ほして、御琴を押し退けて、控きたまはず、もだいましき。
あるじは彼の為人ひととなりを知りしのち如此かくのごとき人の如何いかにして高利貸などや志せると疑ひしなり、貫一はおのれの履歴をいつはりて、如何なる失望の極身をこれにおとせしかを告げざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
報じさせんとの存意にて右樣の儀を申立久八の助命を願ひしことゝおぼえりいつはりをかまへ公儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)