言伝いいつた)” の例文
旧字:言傳
この一首の言伝いいつたえが面白いので選んで置いたが、地方に出張する中央官人と、地方官と、遊行女婦とを配した短篇のような趣があって面白い歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その種族の祖先がこの川の近所から生れたのであるという言伝いいつたえがありますから、この種族について少し説明をしたいと思います。この種族の名はラブチェという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
勿論もちろんこの内にも、狐狸こりとか他の動物の仕業しわざもあろうが、昔から言伝いいつたえの、例の逢魔おうまときの、九時から十一時、それに丑満うしみつというような嫌な時刻がある、この時刻になると、何だか
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日蓮の生れた日に、鯛が二いそに打ち上げられていたとかいう言伝いいつたえになっているのです。それ以来村の漁師が鯛をとる事を遠慮して今に至ったのだから、浦には鯛が沢山いるのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
急に御飯を食べさせると死ぬと言伝いいつたえたのは疲労した人に不消化物を与えるなといったいましめです。運動の不足は最も人の身体からだに禁物ですが運動の過度もやはり禁物で、運動にも程と加減があります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
これも寄物よりものの幾つかの信仰のように、海の彼方かなたとの心の行通ゆきかよいが、もとは常識であった名残なごりではないかどうか。出来るならば地図の上にその分布をあとづけ、かつその言伝いいつたえの種々相を分類してみたい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たつくちとなへて、此処ここから下の滝の伏樋ふせどいに通ずるよし言伝いいつたへる、……あぶなくはないけれど、其処そこだけはけたがからう、と、……こんな事には気軽な玉江が、つい駆出かけだして仕誼ことわりを言ひに行つたのに
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)