うば)” の例文
商売している以上、体はどうも仕方がない、よごれた体にも純潔な精神的貞操が宿り、金の力でもそれをうばうことはできないのだと。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
足本國の外をまざる我徒ともがらに至りては、只だその瑰偉くわいゐ珍奇なるがために魂をうばはれぬれば、今たその髣髴はうふつをだに語ることを得ざるならん。
若し水路を行くことを辞するときは、職をうばはれるおそれがある。先生は少くも水野が必ず職を褫ふだらうとおもつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
或は傑士賢臣、うなずいて阿附あふせざるれば、軽ければすなわち之を間散かんさんに置き、重ければ則ちうばいてもってみんを編す。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
むかし、正しい武家の女性にょしょうたちは、拷問ごうもんしもと、火水の責にも、断じて口を開かない時、ただ、きぬうばう、肌着をぐ、裸体にするというとともに、直ちに罪に落ちたというんだ。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昇のたんうばッて、叔母のねぶりを覚まして、若し愛想を尽かしているならばお勢の信用をも買戻して、そして……そして……自分も実に胆気が有ると……確信して見たいが、どうしたもので有ろう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
悍驁かんがう激烈げきれつの人であつたが、いづれも惜福の工夫などには疎くて、みな多くは勝手元の不如意を來し、度支たくし紊亂ぶんらん、自ら支ゆる能はざるに至つて、威衰へ家傾き、甚だしきは身を失ひ封をうばはるゝに及び
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
嘉永五年壬子じんし 籍を削り、禄をうばわる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
お銀は胎児のために乳をうばわれようとして、日に日に気のいじけて来る子供のうるささを、少しずつ感じて来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さてこの奇談が阿部邸の奥表おくおもて伝播でんぱして見ると、上役うわやくはこれをて置かれぬ事と認めた。そこでいよいよ君侯にもうして禄をうばうということになってしまった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
吉田の子巳熊みくま仇討あだうちに出て、豊後国鶴崎で刺客の一人を討ち取つた。横井は呉服町での挙動が、いかにも卑怯ひけふであつたと云ふので、熊本に帰つてから禄をうばはれた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この女が一緒になるはずであった田舎のある肥料問屋の子息むすこであった書生を、その叔父の妻君であった年増としまの女が、横間よこあいからうばって行ったのだというようなことも、解って来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お銀は机のそばへ来て、お鈴にうばわれた男のことを、ぽつぽつ話し出した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)