薪炭しんたん)” の例文
村民は五木の厳禁を犯さないかぎり、意のままに明山を跋渉ばっしょうして、雑木を伐採したり薪炭しんたんの材料を集めたりすることができた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
外国に行く四年前まではこの家は地震で曲ったままの古家で薪炭しんたんあきなっていた。薪炭商から瓦斯の道具を売る店へ、文化進展の当然の過程だ。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
建網たてあみに損じの有る無し、網をおろす場所の海底の模様、大釜おおがまえるべき位置、桟橋さんばしの改造、薪炭しんたんの買い入れ、米塩の運搬、仲買い人との契約
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
下谷御徒町おかちまち下総屋しもうさやという薪炭しんたん商に奉公したが、半年ばかりで暇を取り、長者町二丁目の徳田石順の家へ移った。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつもならば京橋あたりへ、薪炭しんたんを積んで来る船頭の女房が最初に罹るのであるのに、今度の流行のさきがけとなったのは、浅草六区のK館に居るTという活動弁士であった。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
山本はくの内閣が出来上り、それと同時に非常徴発令を発布はっぷして、東京および各地方から、食料品、飲料、薪炭しんたんその他の燃料、家屋、建築材料、薬品、衛生材料、船その他の運ぱん具、電線
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それから瓦斯ガス代、電燈でんとう代、水道代、薪炭しんたん代、西洋洗濯代等の諸雑費を差し引き、残りの二百円内外から二百三四十円と云うものを、何に使ってしまうかと云うと、その大部分は喰い物でした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
味噌みそ、塩、醤油しょうゆ薪炭しんたん、四季折々のお二人の着換え、何でもとどけて、お金だって、ほしいだけ送ってあげるし、その女のひと一人だけでさびしいならば、おめかけを京からもう二、三人呼び奇せて
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その手前の横丁の角が鰌屋どじょうや(これは今もある)。鰌屋横丁を真直に行けば森下もりしたへ出る。右へ移ると薪炭しんたん問屋の丁子屋ちょうじや、その背面うしろが材木町の出はずれになっていて、この通りに前川まえかわという鰻屋がある。
此の妻の収入があるので米代と薪炭しんたん費丈はづ支へる事が出来た。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
その厳禁を犯さないかぎり、村民は意のままに山中を跋渉ばっしょうして、雑木を伐採したり薪炭しんたんの材料を集めたりすることができた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はるか向こうを見ると山から木材や薪炭しんたんを積みおろして来た馬橇ばそりがちらほらと動いていて、馬の首につけられた鈴の音がさえた響きをたててかすかに聞こえて来る。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)