荒廃こうはい)” の例文
旧字:荒廢
しかし、本能寺ほんのうじへんとどうじに、異国いこく宣教師せんきょうしたちは信長というただひとりの庇護者ひごしゃをうしなって、この南蛮寺も荒廃こうはいしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしまたそのほかにも荒廃こうはいきわめたあたりの景色に——伸び放題ほうだい伸びた庭芝にわしばや水の干上ひあがった古池に風情ふぜいの多いためもないわけではなかった。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この間その家の荒廃こうはいした庭のなかへ這入はいんで其処そこから一時間ばかりながめていた高原の美しい鳥瞰図ちょうかんずだの
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼は掘り返された土のどろどろした、荒廃こうはいの感じをどうまとめるかにも、頭がられた。そして次に起るもんだいは、どういう樹木をその芭蕉のあとにあしらうかということだった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「チリー国の南端にタマル港があるが、もし荒廃こうはいしていれば、さらに南に航路をとって、マゼラン海峡に出れば、ガーラント港があります。ここへゆけば、かならず豪州ごうしゅう行きの便船びんせんはあるはずです」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ぬきや屋敷は、住む人もなく荒廃こうはいして、そこには、以前のようなやからも住んでいなければ、常木鴻山こうざんも源内もすでにいなかった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここも紫檀したん椅子いす机が、清らかに並べてありながら、冷たいほこりにおいがする、——やはり荒廃こうはいの気が鋪甎ほせんの上に、漂っているとでも言いそうなのです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
半分はこの荒廃こうはいしたヴィラそのものに、半分はこの高みから見下ろせる一帯の美しい村、その森、その花ける野、その別荘べっそう、それからもうかすみながらよく見えなくなり出した丘々おかおかひだ
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
可惜あたら、一代の弓矢をとって、都にまで入りながら、その都で、我意小慾にとらわれ、都を荒廃こうはいさせて都を落ち、やがて粟津あわづで野たれ死に同様な最期を
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらくのあいだ、あれに住めといったばかり、要するに呂宋兵衛は、荒廃こうはいした南蛮寺の番人ばんにんにおかれたわけである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南蛮寺なんばんじ絵蝋燭えろうそくは一つ一つふき消されて、かなたこなたからりだされた四、五十人の浪人ろうにんが、いずれも覆面黒装束ふくめんくろしょうぞくになって、荒廃こうはいした石壁いしかべ会堂かいどうへあつまってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)