膏肓こうこう)” の例文
やがて、ゲルハルトの歌ったドイツのリードや、フロンザリーの弦楽四重奏曲に食いつく頃、私のレコード熱は全く膏肓こうこうに入っていた。
けれども膏肓こうこうに入った病はなかなか癒らなく、世の中の十中ほとんど十の人々はみな痼疾で倒れてゆくのである。哀れむべきではないか。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
馬琴の衒学癖げんがくへきやまい膏肓こうこうったもので、無知なる田夫野人でんぶやじんの口からさえ故事来歴を講釈せしむる事が珍らしくないが
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
もし病はすべて膏肓こうこうに入るを待って始めて針薬を加うべきものとせばともかく、いやしくもしからざる以上、われわれは事のさらにはなはだしきに至らざるに先だち
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
と云うのは、阿片食も病い膏肓こうこうに入ると、昇汞しょうこうを混ぜなければ、陶酔ができなくなる。だから、そこへ昇汞をどんな多量に用いても、それはいっこう致死量にはならないのだ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さびしくなって私にもっと直接な、もっと明瞭な、もっと熱情的な愛の表示を求めるようになったときには幾十年の宿痾しゅくあはすでに膏肓こうこうに入ってもはや如何いかんともすることができなかった。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「つまり、病い膏肓こうこうに入った非実際性のため、と言えば説明がつくでしょうね」
暖かき家庭を造り得たるを喜びつつ、いでや結婚当時の約束を履行りこうせん下心なりしに、悲しいかな、彼は百事の失敗に撃たれて脳のやまいき起し、最後に出京せし頃には病既に膏肓こうこうに入りて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
はずかしめられたる不貞の女の憎み、憎む女の肉をくらい、骨を削りたくなるのは、彼の膏肓こうこうに入れる病根であるかも知れない。竜之助は、金蔵を斬ったこの刃で、その女をあわせて殺したくなりました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
通人の話に、道楽の初は唯いろぎょする、膏肓こうこうると、段々贅沢になって、唯いろぎょするのでは面白くなくなる、惚れたとかれたとか、情合じょうあいで異性とからんで、唯の漁色ぎょしょくおもむきを添えたくなると云う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして一とたびスタートすると、たちまちにして、病い膏肓こうこうに入ってしまう。レコードの場合もそうであったが、広重の時も例外ではなかった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
どうも一度ひとた膏肓こうこうに入った病はちょうどモヒ患者の如く中々癒りそうもなく、私はその誤を去り正に就く勇気の欠乏をナサケナク感じている次第だ。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
斯ういう順序で私の想像で堕落するやまいますます膏肓こうこうって、ついには西洋へ迄手を出して、ヂッケンスだ、サッカレーだ、ゾラだ、ユゴーだ、ツルゲーネフだ、トルストイだ、という人達の手をりて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
どうも病が膏肓こうこうに入っては大医も匙を擲たざるをえないとはまことに情けない次第だ。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)