腹癒はらいせ)” の例文
「瓦だなあ、はよかったねえ、高山でドジを踏んで、みずてんに出し抜かれ、その腹癒はらいせをわたしのところへ持っておいでなすったのかえ」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その千円が手につたら、腹癒はらいせに一つ思ひ切つて洒落しやれた茶会でも開いてやらうと、心待こゝろまちにしてゐると、其処そこへ届いたのは藤田氏からの一封で
その腹癒はらいせと、自分のさもしい根性を一所にたたき破ったのだよ、——一度姉さんと歩行あるいた時、何か買って食べさしたいと思ったが、一銭あった。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
政吉 なあに、文太の奴はあっしにも、ちっと憎む筋のある野郎でさあ、お前さん方のためばかりか、あっしの腹癒はらいせにもなったのだから、そう礼をいうには及ばねえ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
小山男爵は、信一郎に云ひ伏せられた腹癒はらいせがやつと出来たやうに、得々として口を挟んだ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
計らざりき東洋の孤客に引きずり出され奔命にたえずして悲鳴を上るに至っては自転車の末路またあわれむべきものありだがせめては降参の腹癒はらいせにこの老骨をギューと云わしてやらんものを
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此の作は、ダスウシイがシラノと仲が悪くなつてから腹癒はらいせに書いたものらしく、シラノの生前に発表すると決闘を申込まれる倶れがあるので、シラノの死ぬのを待つて公にしたものださうである。
書狼書豚 (新字旧仮名) / 辰野隆(著)
そうでなければ、鯨で言い伏せられた腹癒はらいせに、先方の知識の薄弱なところをねらって、オットセイで論鋒を盛り返そうとするのかも知れない。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それのかなわない腹癒はらいせに、商会に対する非常な妨害から蹉跌さてつ没落さ。ただ妻の容色きりょうを、台北の雪だ、「雪」だととなえられたのを思出にして落城さ。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小山男爵だんしゃくは、信一郎に云い伏せられた腹癒はらいせがやっと出来たように、得々として口を挟んだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
嬉しそうに歩いているところを見せつけられたからけてたまらねえので、そんな悪戯いたずらをして腹癒はらいせをしてみたんだ、早く言えば百、お前が色男すぎるから調戯からかわれたんだ
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なお先刻の腹癒はらいせに、滅茶々々になぐつぶさんと、例の鉄棒をひねる時、銀平は耳をそばだてて
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
虐殺なぶりごろしにして腹癒はらいせして、そうして下枝のそばに高田の死骸をたおして置く。の、そうすれば誰が目にも、高田が下枝を殺して、自殺をしたと見えるというものだ。何と可い工夫であろうが。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お角は小屋へ帰って、その腹癒はらいせに、せっかく来合せていた米友をさんざんにののしって、その足でまた山下の銀床へ飛んで行きました。そうして百蔵の胸倉を取って思う存分に文句を言いました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殺されるのはなかなか一通りの苦しみじゃないぜ、それもこう一思いに殺ればまだしもだが、いざお前を殺すという時には、これ迄の腹癒はらいせに、かねても言い聞かした通り、虐殺なぶりごろしにしてやるのだ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)