腕拱うでぐ)” の例文
数右衛門は、腕拱うでぐみした儘、自分の頭を、畳の中へめり入れるように、俯向うつむき込んでいたが、やがて少しめかけた顔を持ち上げると
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっきの牢人と、ほかにもう二人、同じ風体ふうていの男が近づいて来て、お通の乗っている牛のまわりに、腕拱うでぐみして立ったのである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そっとのぞいてみると、鼈甲べっこうぶちの眼鏡をかけた権内が、十畳の座敷いっぱいに金をならべて、その真ん中に、腕拱うでぐみをしているのだった。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の姿は腕拱うでぐみのままだった。その腕拱みにいつかくりやの方から朝の明るみがしている。彼はむッくりって水瓶みずがめのそばで顔を洗い出した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たった今、そこへお通を押籠めた前の彼と、外に立って腕拱うでぐみして入り直して来た彼とは、わずかな間に、ヘビがじゃになった程、変っていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腕拱うでぐみを窓へふかく乗せたまま、露八は岸の水を見ていた。船も笛も下流しもへ去ったが、水のおもてにはまだお喜代が見える。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
凝然ぎょうぜんとして腕拱うでぐみを解かないのである。しかし彼の眉には、年来、胸にわだかまっていたものが解けていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんな道化てばかりいる暢気者のんきものはないぞとは、客の云うことであるが、吉原なかの者は、台屋の横丁のぬかるみを、苦虫を噛みつぶして、黙然もくねん腕拱うでぐみしながら
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼方あなた男女ふたりは、往来の眼をはばかるように、橋のたもとに近い欄干へ身の位置を移して、武蔵もその上に腕拱うでぐみを乗せ、朱実も並んで、河原の下へおもて俯向うつむけている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
筆を耳にはさんで毎日ぽかんと空虚うつろな眼をしている。時には、物々しく腕拱うでぐみして考え込んでいる。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どう無理工面をしたのか、銅鑼どら部屋の連中が、五両という金をそろえて腕拱うでぐみをしていた。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の団栗顔どんぐりがおがまたこの中で腕拱うでぐみして交じっていても少しも異質には見えなかった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「無礼者ッ。腕拱うでぐみしたまま、奉行の前へ出るやつがあるかッ。退されッ!」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唖然としたように、後ろの浪人二人は、腕拱うでぐみをくんで、立ちどまった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、空想から自信へ移しかえて、うむと、大きく腕拱うでぐみをしはじめた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云い放したまま、腕拱うでぐみして、首を埋めてしまった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、腕拱うでぐみして、その前に坐ってしまった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一学は腕拱うでぐみをして眺めていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)