みゃく)” の例文
下女が乱暴に焚付たきつけを作ることまで知った長氏に起って、生の麦をすぐに炊けるものだと思っていた氏政に至って、もうみゃくはあがった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
みゃくを診るのに両方の手をつかめえて考えるのが小一時こいっときもかゝって、余り永いもんだで病人が大儀だから、少し寝かしてくんろてえまで、診るそうです
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女に向けて挨拶あいさつぐらいは心得てると、腹の中で感心してますと、どうでしょう、それはわたしが本当に酔ってるか酔ってないかみゃくを見たのですわ。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
少佐と新一青年とは、曲者をそこに横たえて、みゃくと呼吸を調べたが、男はまったく息絶えていることが分った。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
心はとどろく、みゃくは鳴る、酒のえいを円タクに蒸されて、汗ばんだのを、車を下りてから一度夜風にあたった。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、いうのは三筋のみゃく、天地人の三脉に添って、そんの位置からけんの位置まで斜めにタコが出来ている。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひらけん時分の事で、此の宿しゅくでは第一等の医者だというのを宿やど主人あるじが頼んでくれましたが、まるで虚空蔵様こくうぞうさま化物ばけもの見たようなお医者さまで、みゃくって薬と云っても、漢家かんかの事だから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
頭巾ずきん黒く、外套がいとう黒く、おもておおい、身体からだを包みて、長靴を穿うがちたるが、わずかにこうべを動かして、きっとその感謝状に眼を注ぎつ。こまやかなる一みゃくの煙はかれ唇辺くちびるを籠めて渦巻きつつ葉巻のかおり高かりけり。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むす子は母親の眼の前に現実を突きつけるように意地悪く云い放ちながら、握った手では母親の怯えのみゃくをみていた。かの女には独りで異国に残るむす子の悲壮な覚悟が伝わって来て身慄みぶるいが出た。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
が、その手にはみゃくがなかった。激情が彼を殺したのである。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
畚褌の上へ引張ひっぱらせると、脊は高し、幅はあり、風采ふうさい堂々たるものですから、まやかし病院の代診なぞには持って来いで、あちこち雇われもしたそうですが、みゃくを引く前に、顔の真中まんなかを見るのだから
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)