紋緞子もんどんす)” の例文
寝台は色あせてはいたが、豪華な紋緞子もんどんすで、高い天蓋てんがいがついており、張出し窓と反対側の壁のくぼみのなかにあった。
これは黒い紋緞子もんどんすに、匂の好い白蘭花パレエホアを挿んだきり、全然何も着飾っていない。その年よりも地味ななりが、涼しい瞳の持ち主だけに、如何にも清楚な感じを与えた。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ことごと窓帷カアテンを引きたる十畳の寸隙すんげきもあらずつつまれて、火気のやうやく春を蒸すところに、宮はたいゆたか友禅縮緬ゆうぜんちりめん長襦袢ながじゆばんつま蹈披ふみひらきて、紋緞子もんどんす張の楽椅子らくいすりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
老人が紫檀したんの書架から、うやうやしく取りおろした紋緞子もんどんすの古い袋は、何だか重そうなものである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「絵だけ描いていれぱ、当人も世間も助かるものを、紫の太緒ふとひもを胸高々と、紋緞子もんどんすはかま引摺ひきずって、ひとが油断をしようものなら、白襟を重ねて出やがる。歯茎が真黒まっくろだというが。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長押作なげしづくりに重い釘隠くぎかくしを打って、動かぬ春のとこには、常信つねのぶ雲竜うんりゅうの図を奥深く掛けてある。薄黒く墨を流した絹の色を、かくに取り巻く紋緞子もんどんすあいに、びたる時代は、象牙ぞうげの軸さえも落ちついている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)