窓側まどぎわ)” の例文
書斎でもあり寝室でもある部屋の机にむかって、岸本は自分の書いたものを取出した。窓側まどぎわの壁に掛けてある仏蘭西の暦は三月の来たことを語っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
宗助は何の工夫もつかずに、立ちながら、向うの窓側まどぎわえてある鏡の裏をはすながめた。すると角度の具合で、そこに御米の襟元えりもとから片頬が映っていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
広子の聯想れんそうはそれからそれへと、とめどなしに流れつづけた。彼女は汽車の窓側まどぎわにきちりとひざを重ねたまま、時どき窓の外へ目を移した。汽車は美濃みの国境くにざかいに近い近江おうみ山峡やまかいを走っていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宵の明星の姿が窓の外の空にあった。時々その一点の星の光を見ようとして窓側まどぎわに立つと、すさまじい群集の仏蘭西国歌を歌って通る声が街路まちの方に起った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分はって窓側まどぎわへ行った。そうして強い光に反射して、乾いた土の色を見せているくらがりとうげを望んだ。ふと奈良へでも遊びに行ってようかという気になった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は窓側まどぎわに手を突いて、外を見下みおろした。すると何よりもまず高い煙突から出る遠い煙が眼にった。その煙は市全体をおおうように大きな建物の上をい廻っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は自分の部屋へ行って独りで悄然しょんぼり窓側まどぎわに立って見た。かつ信濃しなのの山の上で望んだと同じ白い綿のような雲を遠い空に見つけた。その春先の雲が微風に吹かれて絶えず形を変えるのを望んだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
世界はもう二つにった。老人は思わず窓側まどぎわへ寄る。青年は窓から首を出す。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分はそれでも我慢して容易に窓側まどぎわを離れなかった。つい向うに見える物干に、松だの石榴ざくろだのの盆栽が五六はち並んでいるそばで、島田にった若い女が、しきりに洗濯ものを竿さおの先に通していた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)