空瓶あきびん)” の例文
撫子、銚子ちょうし杯洗はいせんを盆にして出で、床なる白菊をと見て、空瓶あきびんの常夏に、膝をつき、ときの間にしぼみしをかなしさまにて、ソと息を掛く。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大革命の葡萄収穫!……その一七八九年の葡萄酒からは、もう現在では、家のあなぐらに幾本かの空瓶あきびんが残ってるのみである。
外へ出て見たら、それは劇薬の塩酸の空瓶あきびんだった。塩酸は印刷に使う銅の板を磨いたり、腐蝕ふしょくさせて、いろいろの文字や模様を彫り込むのに使うのさ。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ぼくは勿論もちろん一生懸命いっしょうけんめいで、すみから隅まで、草の根をしわけて探してみましたが、処々にのこっているコカコラの空瓶あきびん、チュウインガムの食滓たべかすなどのほかには、水滴をつづった青草が
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
夜、外の闇から火光あかりを眼がけて猛烈にカナブンが飛んで来る。ばたンばたンと障子しょうじにぶつかる音が、つぶての様だ。つかんでは入れ、掴んでは入れして、サイダァの空瓶あきびんが忽一ぱいになった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
中から、オー・ド・コローニュの空瓶あきびんをつまみ出し、それを嗅いでみる。
モノロオグ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ところで、その子はビールの空瓶あきびんふなべりから、ぽんと水に投げる。瓶は初め茶褐ちゃかつに、のちは黒く、首だけもたげもたげしてながれに浮く。青の紫のかもの首、うしろにうしろに遠くなる。それほど舟が早いのだ。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
近頃電話を借りに行くこともなくなった大家の店には、酒の空瓶あきびんにもう八重桜がかっているような時候であった。そこの帳場に坐っている主人から、お島たちは、二度も三度も立退たちのきの請求を受けた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)