稲荷鮨いなりずし)” の例文
旧字:稻荷鮨
美音で思い出したが、十軒店じっけんだなにも治郎公なぞと呼んでいた鮨屋が、これもい声で淫猥な唄ばかり歌って、好く稲荷鮨いなりずしを売りに来たものだった。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
のみならずその木の根元には子供を連れたおばあさんが二人曇天どんてんの大川を眺めながら、花見か何かにでも来てゐるやうに稲荷鮨いなりずしを食べて話し合つてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と、十軒店じっけんだなの治郎さんの、稲荷鮨いなりずしが流してくるようにならなければ、おでんやや、蠑螺さざい壺焼つぼやきやも出なかった。
夜店の茶飯屋で一人はあんかけ豆腐で茶飯をかき込む、一人は稲荷鮨いなりずしを腹いっぱい詰め込んで
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
新しいむしろ筍掘器たけのこほり、天秤棒を買って帰る者、草履ぞうりの材料やつぎ切れにする襤褸ぼろを買う者、古靴を値切ねぎる者、古帽子、古洋燈、講談物こうだんものの古本を冷かす者、稲荷鮨いなりずし頬張ほおばる者
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうして油揚あぶらげの胴を干瓢かんぴょういわえた稲荷鮨いなりずし恰好かっこうに似たものを、上から下へ落した。彼は勾欄てすりにつらまって何度も下をのぞいて見た。しかし誰もそれを取ってくれるものはなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日頃顔を見知った八百屋やおや夫婦も、本町から市町の方へ曲ろうとする角のあたりに陣取って青い顔の亭主と肥った内儀かみさんとが互に片肌抜かたはだぬぎで、稲荷鮨いなりずしけたり、海苔巻のりまきを作ったりした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
初午はつうまの日には稲荷鮨いなりずしなど取寄せて、母子のようなくつろぎ方で食べたりした。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
売声うりごえで今一つ明治前に名高かったのは、十軒店じっけんだなの治郎公というのが、稲荷鮨いなりずしを夜売り歩いた。この治郎公は爺でしたが、声が馬鹿に好い、粋なのどでしたので大流行を極めた。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
初午はつうまの日には稲荷鮨いなりずしなど取寄せて、母子のようなくつろぎ方で食べたりした。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)