わつち)” の例文
成程なるほど善悪にや二つは無えが、どうせ盗みをするからにや、悪党冥利みやうりにこのくれえな陰徳は積んで置きえとね、まあ、わつちなんぞは思つてゐやすのさ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わつちアおめえにりんびやうおこつてもぢきなほ禁厭まじなひをしへてらう、なはを持つてな、ぢきなほらア。主人「はてな…へえゝ。弥「痳病りんびやう尋常じんじやう)になわにかゝれとふのだ。 ...
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
何様どうしてやるにも遣り様なく、困りきつて逃亡かけおちとまで思つたところを、黙つて親方から療治手当も為てやつて下された上、かけら半分叱言らしいことをわつちに云はれず、たゞ物和しく
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「実際あの服はわつちがちよろまかしたに相違ありやせんが、先生の弁護を聞いてると、うやらわつちが盗んだつてえのも怪しくなつて来やした。事によつたら、わつちの仕事ぢや無かつたかも知れやせんぜ。」
一体あんな馬鹿野郎を親方の可愛がるといふがわつちにはてんから解りませぬ、仕事といへば馬鹿丁寧ではこびは一向つきはせず、柱一本鴫居しきゐ一ツで嘘をいへば鉋を三度もぐやうな緩慢のろまな奴
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わつちだつて何も盗つ人の肩を持つにや当ら無えけれど、あいつは懐のあつたけえ大名屋敷へ忍びこんぢや、御手許金と云ふやつを掻攫かつさらつて、その日に追はれる貧乏人へ恵んでやるのだと云ひやすぜ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だが然し姉御、内の親方には眼玉を貰つてもわつちは嬉しいとおもつて居ます、なにも姉御の前だからとて軽薄を云ふではありませぬが、真実ほんとに内の親方は茶袋よりもありがたいとおもつて居ます
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「いや、はや、飛んでも無えたはけがあるものだ。日本の盗人ぬすつとの守り本尊、わつち贔屓ひいきの鼠小僧を何だと思つてゐやがる。親分なら知ら無え事、わつちだつたらその野郎をきつと張り倒してゐやしたぜ。」
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)