社会よのなか)” の例文
そりやあ、もう、新平民か新平民で無いかは容貌かほつきで解る。それに君、社会よのなかから度外のけものにされて居るもんだから、性質が非常にひがんで居るサ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「人間の社会よのなかというものは、ちょうど春先の野火焼とおなじようなものでございますな。——焼けば焼くほど、後から草が伸びてくる……」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まことに世の中は不幸なる人の集合あつまりと云うても差支さしつかへない程です、現に今まこゝ団欒よつてる五人を御覧なさい、皆な社会よのなか不具者かたはです、渡辺の老女さんは
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ちょうど千代子が私に対するような冷たさを、数限りなき私たちの同輩なかまはこの社会よのなかから受けているではないか。私はもう決して高谷千代子のことなんか思わない。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
一見、いくさは、急速に社会よのなかを進化させるもののように見える。そして、誰一人、ここに生きているものは戦をのろっていなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忘れずに居る程のなさけがあらば、せめて社会よのなか罪人つみびとと思へ、う言つて、お志保の前に手を突いて、男らしく素性を告白うちあけて行つたことを話した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
身をかねるというような女々めめしい態度から小さいながら、弱いながらも胸の焔を吐いて、冷たい社会よのなかきつくしてやろうというような男々おおしい考えも湧いて来た。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「源家の残党だ。彼らは、平家の社会よのなかに、公然とは歩けなかったから、皆、山や野にかくれて、時節を待っていたものだ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お前は直に、曾根さん、曾根さんだ。それがどうした。お前のような狭い量見で社会よのなかの人と交際が出来るものか」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
浄土のさちは人にうべきものではないし、また、この社会よのなかには、浄土をねがうよりも、すすんで地獄の炎をあびようとすら願う者もあるのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正教員といふ格につけられて、学力優等の卒業生として、長野の師範校を出たのは丁度二十二の年齢としの春。社会よのなかへ突出される、直に丑松はこの飯山へ来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
宋大人そうたいじん。きのうまでの自分の倨傲きょごうは、慚愧ざんきにたえん。まったく、迷いの夢がさめた。わしは梁山泊というものも、また広くはこの社会よのなかをも、見損なっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このままにして立ち去れば、後には野盗や追剥おいはぎが住むにきまっている。それではせっかく忠節な人の跡が、社会よのなかを毒する者の便宜になるから焼いたのだ。……分ったか」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今の社会よのなかとはどんなふうにうずまき動いているのか、自分をまたなく愛してくれる六条の頭殿の一族と、六波羅の清盛の一門とが、どう対立し、どう葛藤かっとうし、どういう危険な状態にあったのかすら
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庶民の生業なりわい、武家のありかた、朝廷のお考え——までをふくんだ歴史の行きづまりというものが、どうしてもいちど火をいて、社会よのなかかたちをあらためなければ、もさっちも動きがとれない
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「河の中の魚になると、河が見えない。余り書物にとらわれて書物の虫になってしまうと、生きた文字も見えなくなり、社会よのなかにもかえって暗い人間になる。——だから今日は、暢気のんきに遊べ、おれも遊ぼう」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)