磨滅まめつ)” の例文
試験制度は、全く、彼等の想像力と空想力と冒険的精神を磨滅まめつさしてしまう。学校へはいると、もう子供の喜びは奪われてしまうのだ。
子供は虐待に黙従す (新字新仮名) / 小川未明(著)
浜の真砂まさご磨滅まめつしてどろになり、野の雑草の種族が絶えるまでは、災難の種も尽きないというのが自然界人間界の事実であるらしい。
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その中にかくも多年の間こもってきたことは、なんと不名誉なことだろう! 彼は肉体が磨滅まめつしてゆくのをながめて、こう考えた。
生い茂った草のなかに大きい碑が倒れていましたが、その碑はもう磨滅まめつしていて、なんと彫ってあるのか判りませんでした。
知って放擲ほうてきしたか、思い上がりが磨滅まめつさせたか、とまれ謙虚を失ったのは、一代あれほどたくわえて来た知識をすべてねずみに喰わせてしまったようなものだ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
して見ると四角な世界から常識と名のつく、一角いっかく磨滅まめつして、三角のうちに住むのを芸術家と呼んでもよかろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるにパリーの浮浪少年は、あえて言うがパリーの浮浪少年は、表面いかにも磨滅まめつされ痛められてはいるが、内部においてはほとんど純全たるままである。
蜘蛛くものようにその肩から六本の手を出したこの異様な偶像は、あたりの静寂を一層強めるばかりでなく、その破損はそん磨滅まめつの彫刻が、荒廃の跡に対してれもが感ずる
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三行書みくだりがきの中奉書はの年の七夕たなばた粘墨ねばずみに固まりてれたる黒毛にかびつきたるは吉書七夕の清書の棒筆、矢筈やはず磨滅まめつされたる墨片は、師匠の褒美ほうびの清輝閣なり、彼はえり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
おぬしの専門は南蛮鋳物じゃが、金物なら木彫りよりはなお磨滅まめつするうれいもなしな。
その打算のするどさを、やうやく本能が磨滅まめつして、その不足を理性の力でおぎなふことに懸命な大人の打算にくらべてみれば、その質の上の差は一見して明瞭といはなければならない。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
けれども、彼らは、恐ろしく磨滅まめつして来た。いわゆる「焼けて」来たのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
医者も施すすべがなかった。病勢は非常に激烈だったし、アントアネットの身体は、長年の過労のためにすっかり磨滅まめつしていた。
汽車きしゃや、線路せんろは、てつつくられてはいますが、その月日つきひのたつうちにはいつかはしらず、磨滅まめつしてしまうのです。みんな、あなたに征服せいふくされます。
ある夜の星たちの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はきごこち、踏みごこちの柔らかであるということは、結局磨滅まめつしやすいということと同じことになるのではないか。
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
磨滅まめつした心棒にしてしまうのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
友があれば生き甲斐がいが出てくる。友のために生きるようになり、時の磨滅まめつ力にたいして自分の保全をつとめるようになる。
だれが考えたものか知らないが、この鉄片はとにかく靴のかかとの磨滅まめつを防ぐために取り付けたものには相違ない。
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そういう宿命観が彼女の身体を支持していた。愛は彼女の心を支持していた。そして自分の生命が磨滅まめつしてしまった今では、クリストフのうちに生きていた。
また物体の磨滅まめつの現象からも、目に見えぬ微小部分が存するゆえんが引証されている。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私はもうみつきません。私の歯は磨滅まめつしています。芝居へ行きましても、私はもう無邪気な観客のように、役者をののしったり叛逆はんぎゃく者を侮辱したりはいたしません。
あらゆる観念は、民主国では早く磨滅まめつする。その伝播でんぱが早ければ早いほど磨滅も早い。
社交界の萎靡いび的影響を受けて、たちまちのうちに精力は鈍くなり、独特な性格は磨滅まめつしてゆく。クリストフは芸術家らのうちに、多くの死んだ者や死にかけてる者に出会って驚いた。
それは、教師の生活——けっしてとどまりもせず進みもせず同じ場所で回転してる車のように、前日と同じ日が毎日繰り返されてゆく勤労の生活、その生活から磨滅まめつされた結果であった。
身体が磨滅まめつして、もはや人生から何も期待しなくなると、私心なき情緒が自由に動いてくる。そして子供らしい涙の泉が開けるのである。オリヴィエはいろんなつまらない事に気をとられていた。