石階いしだん)” の例文
寒いこまかい雨はしとしと降っていた。ふるい停車場の石階いしだんを上ると、見送りに来てくれた人達が早やそこにもここにも集っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、夥多あまたの肉団に取囲まれたまま、二羽の白鳥は静に目ざす石階いしだんの下へと着きました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かの女を得なければいっそ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心をいだいて、華表とりい、長い石階いしだん、社殿、俳句の懸行燈かけあんどん、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
早速本を置いて入口いりぐちの新聞を閲覧する所迄出て行つたが、野々宮君が居ない。玄関迄出て見たが矢っ張り居ない。石階いしだんりて、首をばして其辺そのへんを見廻したがかげかたちも見えない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
群集は門衛に切符を渡し、一列に成つて電灯のいて居る狭い螺旋がた石階いしだん徐徐じよ/\と地下へ降り始めた。戯れに御経おきやうを唱へ出す男のむれがあつて皆を笑はせた。日本ならば念仏と云ふ所であらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
とその時入口の石階いしだんのところへ出て来て英語でいた年とった婦人があった。岸本はその人を一目見たばかりで手紙をくれたお母さんだと知った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
両側の断崖が徐々にせばまって、そのがっした所に、水面から一直線に、雲にるかとばかり、そそり立っている所の、これのみは真白に見えている、不思議な石階いしだんを云うのですが
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そばを見ると、暗いながら、低い石階いしだんが眼に入った。ここだなとかれは思った。とにかく休息することができると思うと、言うに言われぬ満足をまず心に感じた。静かにぬき足してその石階を登った。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
重い戸を閉めて置いて、三吉は蔵の石階いしだんを下りた。前には葡萄棚ぶどうだなや井戸の屋根がすずしそうな蔭を成している。横にある高い石垣の側からは清水も落ちている。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
老婦人は草花の咲いた庭に出ていて、家の入口の正面にある広い石階いしだんの近くに幾つかの椅子を置き、そこで客を待っていた。その辺には長い腰掛椅子も置いてあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この静かな庭の方へ、丁度私達の居る病室と並行に突出した建築物たてものがあって、その石階いしだんの鉄のてすりまでも分って来た。赤く寂しい電燈が向うの病室の廊下にも見える。顔を洗いに行く人も見える。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)