相応そぐ)” の例文
旧字:相應
紫玉は我知らず衣紋えもんしまった。……となえかたは相応そぐわぬにもせよ、へたな山水画のなかの隠者めいた老人までが、確か自分を知っている。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして何か考え込みながら、窓から外を眺めている時の横顔などが、その気分と相応そぐわないほど淋しく見られることがあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ゆびさされた入口の扉を背にしてったのは、この空気とは相応そぐわない、名記者千種十次郎の和服姿です。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「ノッソリの方は当たっているがズングリの方はちと相応そぐわぬ。どうしてなかなか美少年だ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紫玉は我知われしらず衣紋えもんしまつた。……となへかたは相応そぐはぬにもせよ、へたな山水画のなかの隠者めいた老人までが、確か自分を知つて居る。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
僧院の生活くらしも不安であった。そうして俺達には相応そぐわなかった。その時造顔師の噂を聞いた。どんなに俺は喜んだか! で、山伝いに行くことにした。そうして今やここへ来た。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
但し閨の戸では、この室には相応そぐわぬ。寝ているのは、およそ十五畳ばかりの西洋……と云うが、この部落における、ある国手いしゃの診察室で。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茶の唐縮緬めりんすの帯、それよりも煙草に相応そぐわないのは、東京のなにがし工業学校の金色の徽章きしょうのついた制帽で、巻莨まきたばこならまだしも、んでいるのが刻煙草きざみである。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我ながら相応そぐはない事を云つて、火桶ひおけ此方こなたへ坐つた時、違棚ちがいだなの背皮の文字が、稲妻いなずまの如く沢のひとみた、ほかには何もない、机の上なるも其の中の一冊である。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此方こなたも古塚の奇異に対して、瞑想めいそう黙思した男には相応そぐわない。