白徒しれもの)” の例文
長局ながつぼねを専門にかせいだ鼠小僧といったような白徒しれものがあって——昨晩、この長局をおかしたとすれば、それは一枚や二枚の番附ではすむまい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかるに彼はこの志士が血の涙の金を私費しひして淫楽いんらくふけり、公道正義を無視なみして、一遊妓の甘心かんしんを買う、何たる烏滸おこ白徒しれものぞ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
今日迄度々警察を悩まして来た白徒しれもので、殊に異性の私を殺し得る機会を得ようと兼ねてから付け狙っていた恐るべき変態恋愛の半狂人である。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なるほど、間柄まがら、貴公から、雪之丞という奴、とんだばけ物と承っていたが、これは又、途方もない白徒しれものだ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
すねた顔色つらつき、ふてた図体ずうたい、そして、身軽な旅人の笠捌かささばきで、出女の中を伸歩行のしあるく、白徒しれものの不敵らしさ。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで、いよいよ図にのった、この白徒しれものが、「まっぴら、ごめんくださいまし」と、色代しきだいするような手つきをして、膝行頓首しっこうとんしゅ、通り過ぎて行く。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
法体ほったいと装ひて諸国を渡り、有徳うとくの家をたばかつて金品をかすめ、児女をいざなひて行衛をくらます、不敵無頼の白徒しれものなる事、天地に照して明らかなり、汝空をかけり土にひそむとも今はのがるゝに道あるまじ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その昔、この道を通った時に、不意に背後から呼び留めて、白昼、真剣の果し合いを申込んだあの白徒しれものである。
この通りふらりふらりと着流しで歩いてはとまり、とまっては歩いているのだから、兇悪なる屋尻切やじりきりの目的を以て外間からこのところへねらい寄った白徒しれものでないことは確かです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
度すべからざる白徒しれものだという面をして、三公と、お盆の餅とを見比べていたが、この野郎はお先へ御免をこうむってしまって、走餅を一つつまんであんぐりと自分の口中へほうり込み
王羲之おうぎしの孝経を一目なりとも自分に持って来て見せると誓ったような、あの不思議な応対が、今となっては犇々ひしひしと思い当る——奇怪、不埒ふらち、人を食った白徒しれもの——と奥歯を噛んでみたが、それにしても
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
轟の源松も立ちすくんでしまったのは、冗談ではない、送り狼の、送られ狼のと、口から出まかせにおのれの名を濫用する白徒しれものの目に物を見せようと、狼が飛び出して来た、正の狼が眼の前へ現われた!
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)