発頭人ほっとうにん)” の例文
旧字:發頭人
「——覚明っ、お止めしてください。お師さまが」太夫房覚明は、この事件を大事にした発頭人ほっとうにんと皆から叱られていたのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを云い触らした発頭人ほっとうにんはかの七助をはじめとして、佐兵衛、次郎兵衛、六右衛門、弥五郎、甚太郎、権十の七人であった。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕の青春を鋳潰す計画をたてた発頭人ほっとうにんではないか、それを正したかったこと、その二つは、イレネとの関係について日本人たる彼が如何なる考えを持っているのか
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だが、奇怪なのは、この騒ぎの発頭人ほっとうにんであるインバネスの男であった。彼は洋服紳士に夕刊を渡すと、コソコソと群集の間をすり抜けて、いつか人垣の外へ出ていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
実はあの発頭人ほっとうにん得業とくごう恵印えいん諢名あだな鼻蔵はなくらが、もう昨夜ゆうべ建てた高札こうさつにひっかかった鳥がありそうだくらいな、はなはだ怪しからん量見で、容子ようすを見ながら、池のほとりを
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはこの家が物部守屋連もののべのもりやのむらじの子孫であって、善光寺の御本尊を難波なにわ堀江に流し捨てさせた発頭人ほっとうにんだからというのでありますが、これも恐らくは後になって想像したことで
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
己がその罪悪の発頭人ほっとうにんのような気がして、恐ろしくてじっとしていられなかったが、御台みだいからも禁ぜられているうえに、事件が事件であるから口外することもできなかった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……ところで陰謀の発頭人ほっとうにん、島津太郎丸という器量人、名古屋の城下御器所ごきその高台に、いまだに住居しているという……秘密を知っている宗春卿を、何んでそのまま差し置こう
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いゝえ、国分丈けは別です。彼奴は発頭人ほっとうにんですから、何うしても堪忍出来ません」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
トそういう自分が、事に因ると、茶番の合棒あいぼう発頭人ほっとうにんと思われているかも知れん。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「御覧下さい——あれはお勘定奉行の諒解りょうかいもとにやっている仕事でございます、しかも作業の発頭人ほっとうにんは、もとの甲府勤番支配駒井能登守殿であるらしいことが、意外千万の儀でございました」
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「……その中でも発頭人ほっとうにんになっていた野郎がワザと故郷の警察に嘘をきに帰りやがったんだ。タッタ一人助かったようなつらをしやがって……ここで船が沈んだなんて云いふらしやがったんだ……」
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
敵が取りたければ、残酷を製造した発頭人ほっとうにんに向うよりほかに仕方がない。残酷を製造した発頭人は世間である。高柳君はひとり敵の中をあるいている。いくら、あるいてもやっぱり一人坊ひとりぼっちである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、その中の一名で、しかも三木一城の今日の運命を招来しょうらいした発頭人ほっとうにんであるところの別所賀相よしすけが、いつのまにか姿をかき消していた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀蔵は勿論、発頭人ほっとうにんの喜平とても、妖怪の正体を見とどけに出かけて来たものの、さてその妖怪に出逢ったらばどうするか。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから、——それから先は誇張かも知れません。が、とにかく婆さんの話によれば、発頭人ほっとうにんのお上は勿論「青ペン」じゅうの女の顔を蚯蚓腫みみずばれだらけにしたと言うことです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もしきめたとすれば発頭人ほっとうにんは誰かということになるが、正月以外にはその心あたりはないから、それは要するに社会の力、すなわちまた一つの自然ということになりそうである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「むろん発頭人ほっとうにんは照彦さ。しかし痛かろう?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この事件は自分が発頭人ほっとうにんともいうべきであって、塩冶の内室の世にたぐいなき艶色を自分がうかうかと吹聴ふいちょうしたればこそ、師直の胸に道ならぬ恋の種をいたので
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貧乏車の音がする——という歌を流行はやらせた発頭人ほっとうにんも彼であることが、後にわかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年の若い市之助は、その発頭人ほっとうにんたる七蔵を手討ちにして、自分も腹を切ろうと覚悟を決めたのである。ゆうべの酒もすっかり醒めてしまって、七蔵はふるえあがった。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とりわけて喜平はその発頭人ほっとうにんであるというので、山卯の主人や番頭からきびしく叱られた。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)