生絹すずし)” の例文
生絹すずしの声は懸命な厳格さをおびて、いつになく下ノ者に烈しく答えた。わたくしは何のためにここに訪れて来たのであろう。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「香染の単衣ひとえくれないこまやかなる生絹すずしの袴の、腰いと長く、衣の下よりひかれたるも、まだ解けながらなめり。」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
あさましく覚えて、ともかくも、思ひわかれず、やをら起き出でて、生絹すずしなる単衣ひとへ一つ着て、すべり出にけり。君は入りたまひて、ただ一人したるを、心やすくおぼす。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょっとしゃれた作りになっている横戸の口に、黄色の生絹すずしはかまを長めにはいた愛らしい童女が出て来て随身を招いて、白い扇を色のつくほど薫物たきものくゆらしたのを渡した。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
りゅう生絹すずし、供えものの唐櫃からびつ呉床あぐら真榊まさかき根越ねごしさかきなどがならび、萩乃とお蓮さまの輿こしには、まわりにすだれを下げ、白い房をたらし、司馬家の定紋じょうもんの、雪の輪に覗き蝶車の金具が
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
兵部は入側いりがわから、小姓に刀を持たせてはいって来た。白の生絹すずし単衣ひとえの着ながしで、いかにもいま夜具から出て来た、という姿だったし、その顔にも、むりに起こされた人のふきげんな色があった。
夏衣なつぎぬ生絹すずしが裾の高踵たかかがとなんぞわらべが少女さびする
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
また或宵は君見えず、生絹すずしきぬ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
生絹すずしは越えて六日に旅立って行った。津の国難波なにわの里は夏がすぎもう秋風が白い砂地のうえをひいやりと過ぎて行った。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
白黒の鯨幕くじらまく、四りゅう生絹すずし唐櫃からびつ呉床あぐら真榊まさかき、四方流れの屋根をかぶせた坐棺ざかんの上には、紙製の供命鳥くめいちょうをかざり、棺の周囲には金襴きんらんの幕……昔は神仏まぜこぜ、仏式七分に神式三分の様式なんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夏衣なつぎぬ生絹すずしが裾の高踵たかかがとなんぞわらべが少女さびする
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
丹波口たんばぐちに近いあたりで舟を下り、西の京の町にはいった生絹すずしは、物商う声、ゆききする人の晴れやかな装束、音という音のみやびたるに眼をみはった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)