なり)” の例文
衣服こそ貧しくあるが、いつもきちんとしてあかの付かぬ物を着ているという、一分の隙もないなり風俗だから余計に話が面白いのだ。
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
口に尾をふくみて、たがなりになり、いなずまほど迅く追い走ると言ったが、全くうそで少しも毒なし、しかし今も黒人など、この蛇時に数百万広野に群がり、眼から火花を散らして躍り舞う
火にあぶったかきもちなりは千差万別であるが、我も我もとみんなかえる。桜の落葉もがさがさにり返って、反り返ったまま吹く風に誘われて行く。水気みずけのないものには未練も執着もない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長八は何心なくるに羽織の定紋と云ひなり恰好かつかう大恩受たる大橋文右衞門樣に髣髴よくにたるは扨も不思議なりと思ながら腰の早道はやみちより錢七八文出して手の内にやりければ浪人者是は/\有難う存じますと云し其物語そのものごしまで彌々いよ/\文右衞門にたるゆゑ長八は忽ち十八年の昔時むかし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし、そんな見苦しいなりをしているにもかかわらず、その体はいま内部から伸びあがりつつあるものを現しはじめているのだ。
お繁 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
老婢に案内されて入って来たのは武家に仕える侍女というなりかたちで、凡そ十七八になる大柄な娘だった。つつましく会釈をして坐るのを見たとき、玄一郎はどこか見覚えのある顔だなと思った。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)