“燐火(おにび)” の例文
何処(いずく)よりか来りけん、忽(たちま)ち一団の燐火(おにび)眼前(めのまえ)に現れて、高く揚(あが)り低く照らし、娑々(ふわふわ)と宙を飛び行くさま、われを招くに等しければ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
星の数ほど、はらはらと咲き乱れたが、森が暗く山が薄鼠(うすねずみ)になって濡れたから、しきりなく梟の声につけても、その紫の俤(おもかげ)が、燐火(おにび)のようで凄(すご)かった。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まるで燐火(おにび)のように生白く見えて来るにつれて、踊っている人達の身体の色がちょうど、地獄に堕ちた亡者(もうじゃ)を見るように、赤や、緑色や、紫色に光って見えて来るんですって。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
罪(つみ)の燐火(おにび)に燃えあがり
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
人は無くて、軒を走る、怪しき狗(いぬ)が見えたであろう。紺屋の暖簾の鯛の色は、燐火(おにび)となって燃えもせぬが、昔を知ればひづめの音して、馬の形も有りそうな、安東村へぞ着きにける。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さきに路を照らせし燐火(おにび)も、今こそ思ひ合はしたれ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
時(とき)に、廊下口(らうかぐち)から、扉(とびら)の透間(すきま)から、差覗(さしのぞ)いて、笑(わら)ふが如(ごと)く、顰(しか)むが如(ごと)く、ニタリ、ニガリと行(や)つて、彼方此方(あちこち)に、ぬれ/\と青(あを)いのは紫陽花(あぢさゐ)の面(かほ)である。面(かほ)でない燐火(おにび)である。いや燈籠(とうろう)である。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
弱った糸七は沓脱(くつぬぎ)がないから、拭いた足を、成程釣られながら、密(そっ)と振向いて見ると、愁(うれい)を瞼(まぶた)に含めて遣瀬(やるせ)なさそうに、持ち忘れたもののような半帕(ハンケチ)が、宙に薄青く、白昼(まひる)の燐火(おにび)のように見えて
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)