“熟(じ)” の例文
自分は腕組みして熟(じ)っとしていたが、我母ながらこれ実に悪婆(あくば)であるとつくづく情なく、ああまで済ましているところを見ると、言ったところで
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
異(か)わったことのおおせ哉(かな)。お夏さんは熟(じ)ッと見ている。帯も襟も、顔なんざその夕日にほんのりと色がさして、矢筈(やはず)の紺も、紫のように見えましたがね。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貫一は目を側めて遊佐が面(おもて)を熟(じ)と候(うかが)へり。その冷(ひややか)に鋭き眼(まなこ)の光は異(あやし)く彼を襲ひて、坐(そぞろ)に熱する怒気を忘れしめぬ。遊佐は忽(たちま)ち吾に復(かへ)れるやうに覚えて、身の危(あやふ)きに処(を)るを省みたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
熟(じ)っとしていると、痛みは消えていった。三十になる頃、心臓が肥大していた。息切れがひどかった。六十になった時には、杖を引いていた。野桜の杖である。ちょっと手頃である。
老人と鳩 (新字新仮名) / 小山清(著)
老人らしく、熟(じ)っくり考えこんで
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮は千条(ちすぢ)の緑の陰より、その色よりは稍(やや)白き面(おもて)を露(あらは)して、追来る人を熟(じ)と見たりしが、竟(つひ)に疲れて起きも得ざる貫一の、唯手を抗(あ)げて遙(はるか)に留(と)むるを、免(ゆる)し給へと伏拝(ふしをが)みて、つと茂の中(うち)に隠れたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は熟(じ)と内向(うつむ)きて、目を閉ぢたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)